リビングに入ると、ギアッチョとメローネが何故かテレビの前で揃って体を傾けながら、わぁーだのうおおおだのと騒いでいる。
 何をやっているのかと思ったら、テレビ画面では桃色のお姫様と緑の恐竜がレーシングカーを走らせていて、あぁ、と納得した。
 仕事が入らない間の時間をつぶせる、何か変わった暇つぶしが欲しいと言い出したのは誰だったか。丁度とある任務でのファインプレーで臨時ボーナスがあったから、まあいいかとネットで見つけた中古の日本製ゲーム機器を購入したのだが、最大四人でプレイできるそれが大層ウケたらしく、現在アジトではテレビゲームがブームになっていた。
「あ、リーダー」
 キッチンのカウンターテーブルでチョコレートを摘まんでいたジェラートが口をもぐもぐさせながらこちらを向いた。
「……んぐ。おかえり」
「あぁ。ソルベはいないのか」
「ちょっと用事があるって出ていったよ。何か用だった?」
「いや」
 首を横に振る。ソルベとジェラートはどんな時も二人で居た。その光景に慣れているためか、今の様に単独で居るときは思わず片割れの所在を聞いてしまうのが癖の様になってしまっていた。だから今の問いも特に意味はない。
 俺はテレビの前の二人に目を向けた。
「お前はしないのか」
「んー……」
 ジェラートは最後のチョコレートを飲み込むと、次なる甘味を求めて戸棚をあさりだした。指をかけて引き出した箱の中身を覗き見ては標的を探している。この男の嗜好はかなり偏っていて、特に甘いものに対する欲求は無尽蔵だった。
「さっきまでやってたよ。でも、全然勝てないから」
「ジェラートが弱すぎるんだって」
「酷いときは開始早々コース外にダイブだもんなァ。あれは爆笑だったぜ」
「ほんとほんと。ただまっすぐ走ればよかったのに、斜めに猛ダッシュって」
 聞こえていたらしく、画面の前の二人がこちらを振り返る。
「ショートカットできると思ったんだけど」
「初めてのプレイですることじゃねーだろ!」
「発想がちょいちょい変わってるよなぁ、ジェラートは」
 まだ一度もゲームに触っていない俺からすれば全く分からない会話だったが、要はゲームの主旨を斜め読みした冒険的な挑戦を繰り返し、自滅してしまうといのがジェラートのパターンらしかった。結果は、全敗。もはや勝つつもりがあったのかすら怪しいものだ。
「別にいいんだよ。ソルベは強いから」
 ジェラートが呟いた。新たな戦いを始めたテレビ画面をぼんやりと眺めつつ、見つけたチョコチップクッキーをもしゃもしゃやりだす。
「後でソルベに仇を討ってもらう」
「……それでいいのか?」
「いいのいいの。ソルベが勝ってくれれば、俺の勝ち」
 確かにあの男は器用だが、そもそもゲームは、というか、勝ち負けというとはそういうものだっただろうか。頭の中で首をかしげる俺に対し、ジェラートは当然だと言わんばかりだ。
「……よくわからない考え方だな」
「わかんなくていいよ」
 俺とソルベのことだから。とジェラートは僅かに目を細めて笑った。

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