これから仕事だと言って、部屋を出ていくプロシュートと入れ違いになる。
 よう、と軽い挨拶を交わし、外へと向かうその後ろ姿を、なんとなく足を止めて見送っていると、ふいに背後から声を掛けられた。
「目の動きってのは、人の心がよく現れるもんなんだぜ、リーダー」
 少しがさついた独特の声がからかう。「そんなにヤツが可愛いか?」
 振り向けばソルベが得物のナイフを手慰みに弄びながらこちらを見ていた。
「……そう答えれば満足か?」
「いーや、結構。言っただろ、目の動きでわかるんだって。十分だぜ。ゴチソウサマ」
 するりと手のひらをこちらに向けてホールドアップの姿勢をとる。そうあっさりと身を引かれては、こちらも噛みつきようがない。なんだか不完全燃焼だ。表情に出ていたらしく、察したソルベは「からかって悪かったよ」と苦笑をしつつ、弄んでいた物をしまった。
「まあなにも恋人が可愛いのはリーダーに限ったことじゃない。当然のことだ」
「随分わかったような口をきくな」
「経験談さ。俺にだって、カワイイ人の一人や二人いたんだぜ」
 そう言ってニヤリ、と笑う。ふざけた調子だったが、この男はやけに顔が広いから妙な説得力があった。
「ジェラートはどうなんだ。可愛いのか」
 そう問うと、ソルベは一瞬きょとんとしたが、ああ、と一人納得して頭を掻いた。またか、というような表情をしている。
「ジェラートと俺は……恋人っつーのとは、なんか違うんだよ。説明しにくいんだがな。第一可愛くねえよ。寝相悪いし。食事の仕方も汚ねえし」
 ソルベはそう言うが、例えばその「やつのことなら何でも知っている」とでもいうような口ぶりだとか、精神的にも物理的にもほぼ無いに等しい二人の距離感なんかが疑惑の色を濃くさせているのだと、言いたいのだが口にはしない。二人の関係についての議論はチーム内でたびたび浮上していたが、結局「二人としては微妙に違うらしいがどう見てもアレだし、まあそういうことだろう」というぼんやりとした結論に落ち着いていた。いつからだろう。三人掛けのソファで必ず両端が空く二人の姿を見ても、誰もつっこまなくなった。慣れとは恐ろしいものである。
「まあ、強いて言うなら」
 ソルベが片目を伏せて怪しく笑う。
「ヤツと俺が実は血がつながってる、なんて言われたら、俺は納得しちまうかもな。それくらい、気が合うんだ」
(……血のつながった兄弟でも始終抱き合っていたりはしないと思うのだが、どうだろう)
 結局、結論は先送りされた。


(やっぱりお前達はよくわからない)

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