※メロプロです。浮気じゃないよ!
※甘い


 すっかり洗剤の匂いが消えてしまったシーツの中で身動ぎをする。すると季節違いのふかふかとした毛布のようなものが顔に押し当てられる感触がして、俺は目を開けた。
「お目覚め?」
 掛けられた声の主は、本来ならこのベッドの中で俺の体を抱いているはずだった。しかしそいつはベッドの傍らに立ち、横たわる俺を見下ろしながら楽しげな笑みを浮かべている。
 代わりに俺を抱いているのは、全長1メートルはあろうかという、もっこもこのテディベアだった。何故か口元にはそこだけ黒色の、紳士ぶった立派な口髭を蓄えている。
「……何だコレ」
 大きな黒い瞳に寝起きの俺の顔が映っている。イタズラを仕掛けた男、メローネはげらげらと笑いながらベッドに腰を下ろした。
「あっはは。実は実はぁー、昨晩プロシュートとお楽しみをしていたのは俺ではなくて、この子だったのです!」
「は?」
「っつーコンセプトだったのです!てか思ってたより可愛いというか絵になってるぜホント。マンモーニプロシュート。ぷぷ」
「殺すぞ」
 ちなみに写メ取ったぜ、と自慢げ見せびらかしてきた携帯をぶんどって気色悪い写真を即消去。ぎゃあぎゃあ煩い頭を小突いてその隙に携帯をその辺にぶん投げてやった。
「ああーーっ!!壊れたらどうすんだよ!!!!」
「知るか」
「短気!!」
「うるせー馬鹿」
 絶対許さねえ!覚えてろ!と喚き散らしながら携帯を取りに行った背中を鼻で笑って、俺は改めて布団にもぐる。再びテディベアと目があった。
 あらためて見てみると、片肘を付きこちらを見つめる姿はどこか不敵さを滲ませていてる。子供っぽい愛らしさと相まってシュール極まりない。
「『昨日はヨかったぜ、小鹿ちゃん』」
「アテレコすんな。なんだよその声」
「クマ彦君は低音ボイスが魅力のダンディー紳士の設定」
「意味わかんねえ」
 戻ってきたメローネがもぞもぞと布団に入ってくる。前にはクマ彦、後ろにはメローネの奇妙な図式が完成した。どっちも同じポーズで俺の方を向いているが、背後から伸ばされた腕はちゃっかりと俺の腰に巻きついてきて心底呆れた。
「…………」
「なあ、びっくりしたか?」
「……目ぇ開けてクマがいたら、少しはな。でも夜がどうのっつーのはねえよ」
「えぇー。そんなこと言って、クマ彦さんのでっかくでモジャモジャなナニにメロメロだったんじゃねえの、て、あ、ちょ、タンマ。直触りタンマ」
「朝から馬鹿な事言ってるからだろうがよ……」
 全く馬鹿な理由でスタンドを出してしまった。体中から後ろの馬鹿を睨むグレイトフルデッドを消して、メローネの腕が離れた隙に、あてつけるようにクマ彦に抱きついた。
 顔を埋める。なんだ、結構寝心地よさそうじゃねえか。これはいいな。
「あ、寝るのかよ」
「おう」
「クマ彦君と?」
「おう……」
「浮気だっ!」
 うるせえ。
「……俺の理想の恋人はな」
 仕方なく身返りをうち、喚くメローネの口に指を押し当てる。
「俺の睡眠を邪魔しない。ベッドには必要な時だけ入る。ヤったあとは、大人しく突っ込まれてやった俺の体をちゃあんと労わってくれる。何処かの誰かと違って、クマ彦は完璧だな」
「……これ俺のベッドなん「あーでもそうだな。俺の為に、遅めの朝食を用意してくれるってのは、クマ彦には出来ねぇ芸当だな」……はいはい」
 ベネ、と頭を撫でてやったら、メローネは困ったような顔をしてベッドを抜け出した。
 プロシュートはずるいよな。聞こえてきたぼやき声に、クマ彦の腕の中で隠れて笑った。

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