体を支配する鈍い痛みに呻く。
 生ぬるいシーツに埋もれながら吐いた溜息は、まだ暗い朝の寝室に吸い込まれるように消えた。
「起きたのか」
 頃合いを見計らったようにタイミングよく掛けられた問いに、プロシュートはんー、と曖昧に答えて寝返りを打つ。
 身支度を済ませて部屋の扉に立つリゾットはそんな様子に特に反応も見せないまま、キーホルダーもない殺風景な鍵をベッドの上に投げて寄越した。
「俺はもう行くぞ。出るなら戸締りを頼む」
「リゾット」
 低く掠れた声が呼び止めれば、リゾットは無表情のまま「なんだ」と振り返った。
 相変わらず何を考えているのかわからない顔だと、プロシュートは思う。情事の名残などおくびにも出さない淡白さに笑みが浮かんだ。
「……やっぱなんでもねえわ。呼び止めて悪い」
「……そうか」
 パタン、と扉が閉じられる。
 途端瞼を襲う気怠い睡魔に、プロシュートは枕に顔を埋めた。
 リゾットを呼び止めた時、思わず口にしかけた問いは、この関係が始まってすぐに一度聞いていたものだった。
『お前ってゲイなのか?』
 確認だった。言葉少なで曖昧なこの関係に、少しでも意味を持たせる為の。
 ……いや、少し違う。と心の中で訂正する。
 それもあるが、ただ単純に知りたかったのだ。先の無い同性同士の関係に、あの男が何を望んでいるのか。望めるのか。
 リゾットの答えは大概予想通りで、簡潔だった。
『違う』
 その答えに、プロシュートは安堵した。
 この怠惰で不毛な関係には、少なくとも終わりは用意されている。
 振るのか、それとも振られるのか。それは別にどっちでも良かったし些細な違いだった。そもそもこの関係が始まった時、二人の間に言葉は無かった。ならば終る時もまた何も言わずに終わるのだろう。時が来れば、何事も無かったかのように始まる前の状態に戻る。二人の間に残るものなどありはしない。
「……そうじゃねえと困るんだよ」
 呻きながら、プロシュートは枕を抱え込んだ。
 視界の隅。ベッドサイドに置かれた、白く湯気の立ち上るカップ。
 漂うコーヒーの香りが憂鬱だった。



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