色々あって、承太郎にご飯を作ることになった。
 暇なのだろうか、僕は座って待っているように言ったのだけれど、承太郎は先程からずっと僕の傍らに立って、手元の野菜たちを覗き込んでいる。
 たんたん、たんたんと、包丁が音を立てて野菜を刻んでいく様を、飽きもしない様子でじぃっと見つめている姿は飼い猫を連想させた。黒い毛並みの綺麗な、すまし顔の黒ネコ。
 体格とか、寡黙な所を考えれば大型犬の方が似合っているかもしれないが、残念なことに承太郎は、人なつこい性格の犬の様に、愛嬌を振り撒いたりはしない。
「ん」
 一通り野菜を切り終わった所で、ずっと黙っていた承太郎がふいに声をあげた。
「どうしたんだい」
「それ、タコだろ」
 そういって承太郎が指差したのは、僕の手の中で切れ目を入れられているウィンナーだ。
「これは、ほら、君が喜ぶかと思って。前に海洋生物が好きだって言ってただろう?」
 言いながら段々と照れくさくなってくる。承太郎の喜ぶ顔が見たかったのは本当で、思いついたときはなんて名案だろうと思ったが、今思えば少し、子供っぽかったかもしれない。
 やめておけばよかったと後悔するけれど、手の中にはすでに八本の足を刻まれたウィンナーがある。
 顔が熱くなるのを誤魔化したくて、慌てて新しいウィンナーを手に取り、傷をつけた。さっきのはウィンナーの片端に包丁を入れたが、今度のは両端に。
「ほ、ほら、こっちはカニだよ。作り方はタコとおなじだけど、熱をいれたら切り込みの所が反って、ちゃんとカニに見えるはずだよ。凄いよな。一体誰が考え付いたんだろう、こんなの」
 妙に饒舌な自分を自覚して喉の奥で呻きたくなるのを堪える。こんな僕を、承太郎はどのように思っただろう。
 ちらりと横に目を向ける。また黙りこくって僕の手元をじっと見下ろすその横顔は相変わらず端正で、同じ男の目から見ても美男だ。
「……」
「……」
 いい加減、何か喋ってもいいんじゃないんだろうか。
「……承太郎?」
「花京院」
 呼びかけて、ようやく顔をこちらに向けた承太郎と目が合う。
 ポーカーフェイスは相変わらずなのに、その時の承太郎の瞳は、まるで新しい発見に心をときめかす子供の様で、

「ヒトデは、いけるか」

「…………」

 炒めた後、黙ってタコさんウィンナーの頭を切り取ってみせる。お粗末なヒトデもどきに「微妙すぎるだろ」と文句をいいつつも、承太郎の表情は楽しげだった。
 案外彼は子供なんじゃないだろうか。


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