▼ 無題
倒されたドミノのように床に置かれた何枚もの額縁を、二人の男は何か奇妙な物でも見つけたように、傍にしゃがんで覗き込んでいる。
何事かと近づけば、黒髪の男が顔を上げて、困ったように頭を掻いた。
失敗してしまったことを恥じているのか、勝手な行動をしてバツが悪いのか。そんな様子の男に、もう一人、明るい髪色の男はそっと手を伸ばして、黒髪の男の頬を撫でた。気にしなくても良いと、男を慰めているようだった。
不意に明るい髪色の男が、重なり合った額縁の一つを引き抜いた。
細い両腕をめいいっぱい伸ばして、心から大事そうに抱えこむ。そして額を額縁に摺り寄せると、背中を震わせて、男はすすり泣いた。
ふざけた前衛芸術のようなソレからは、絵の具だろうか、コールタールのようにどす黒い液体が音も無く流れ出している。
男は泣いている。
黒髪の男の姿は消えていた。
俺は強く拳を握り、やり場の無い怒りのやり場を必死に考えていた。
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