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▼ 夢の話 ver.4部

 重力が反転している。
 俺の足の下にあるのは地面では無くて、空だ。
 何もないそこで俺の体を支えているのは、クリスマスツリーなんかについてそうな、オーナメントじみた安っぽい星だった。それは、足場として安定しているとは決して言えない。例えて言うなら大きな湖に浮かぶ船の玩具のように、とにかくふわふわして心もとない。下手に動けないな、とボンヤリ思う。
 頭の上には、見慣れた杜王町の姿があった。
 でもそれもまた作り物のようで、再び例えて言うのなら、TVでよく見る海外のクレイアニメのようだった。偽物っぽい道路のクリーム色、植物の緑、屋根の赤色。
 加えておかしいのは、自分が立つ空と、地上の距離が近すぎることだった。地球もなんだか小さい気がする。……まるで杜王町だけが丸まってできたみたいな。
 そのあたりで、俺は考えるのを止めた。どこもかしこも疑問だらけ。何から手を付けようにも、納得のいく答えは見つかりそうもない。
 とにかく頭の上に町があるのが落ち着かなくて、俺はどうにか元に戻る方法は無いかとあたりをみまわした。
 そんなモンあるのかよと自分自身にツッコミを入れたくもなったが、途方に暮れた俺はとりあえず町へと続く梯子のようなものを想像しながら、宛ても無く足元の星の海を歩き出した。
 ほっ、ほっ、と間抜けな声を上げながら星々の上を飛び回る逆さまの俺は、地上から見れば滑稽だっただろう。幸いなことに、頭上を変わらず歩く杜王町の住人達は空に居る俺に気が付かなかったようで、悲鳴を上げる歩行者だとか、UFO特番の取材クルーなんかは現れなかったけども。
 結局、どれだけ歩いても地上に戻る方法は見つからず、俺はとうとう腰を下ろした。
 胡坐を掻き、あー、と声を上げながら空(地上?ややこしい)を見上げる。
 すると、丁度頭の真上に見覚えのある建物があって、げっ、と思った。
 あそこには何度か行ったことがある。岸辺露伴の家だ。
 助けを求めてみようか、と考えた。
 そうだ、アイツならば。自身の描く『ピンクダークの少年』の主人公の様に、ぶっとんでいながら不思議と筋の通った理論で、俺には思いつかないようなアイデアをくれるかもしれない。
 しかし問題があった。あの男が、素直に手を貸してくれるだろうか。
 噴上の件があってから、少しは気を許すようにはなってくれたと思うのだが、相変わらず顔を合わせれば口論ばかりの仲だ。
 年もそれほど離れていないのだから、友達にだってなれるだろうにと、一人で居る時は思えるのに、直接会うとどうも喧嘩腰になってしまうのは、十中八九あの男の方が原因だ。なにせ態度が違うのだ。特に俺と会う時と、康一と会う時の差は大きすぎる。……考えていたらなんだかムカついてきた。

「そこで何してるんだ」

 心臓が飛び出るかと思った。
 ギョッとして声のするほうに目を向けると、少し上に、逆さまの露伴の顔があった。
 何時の間にか俺は地上の近くまで来ていたらしい。
 正しくは、空がさらに地上へと近づいたと言うべきか。星の上に座っているのはそのままで、俺は露伴の家の屋根のあたりに、露伴は二階の窓辺に立っている。やはり重力が逆さまになっているのは俺だけで、露伴の方は大丈夫なようだった。
「空っぽな頭が軽すぎて、とうとう地面に立っていられなくなったのかよ」
 露伴は何故かこんな頭がイカれた事態にも特に驚く様子は無く、あざけるように鼻で笑った。
「俺にもわッかんねーんだよ。助けてくれ、露伴!!」
 さっきは不安だったが、こうなったらどうとでもなれだ。藁にもすがる思いで頼み込む俺に、露伴は一瞬驚いたような顔をして、そして呆れたように首をふった。
「……僕個人にとしてはもう少し空中浮遊を楽しんでもらった所で、その希少な体験の感想をぜひとも聞かせてほしい所だけどねェ。馬鹿に図体のでかい不良が、まるで泣き出す前の餓鬼みたいな情けない顔をして助けを求めてきたら、気持ち悪くて放っておけないじゃあないか」
「(くっそ〜後で覚えておけよ)頼みますってセンセーッ!!」
「飛べよ」
 え、と声が出た。
「言葉の通りだ。ただし真上に飛ぶんじゃあないぞ。地面に頭から落っこちたいなら別だがね」
「じょ、冗談じゃねー」
「ふん、ならこっちに飛んで来いよ。正直、お前なんか二度と家に上げるもんかって思っていたけれど、非常事態だからな。今回に限っては目を瞑ってやる」
 それだけ言うと、露伴は腕を組んで俺を見つめた。俺が飛ぶのを待っているらしい。
 ――おいおい、そんな簡単なことで大丈夫なのか?本当に出来るワケ?それにどう飛んだとしても、頭から落っこちるのには変わりがないっつーかよォ……――
「な、なァ、露伴先生」
「何だ」
「う、受け止めてくれる?」
 恐る恐る言うと、露伴はこれまでで最大レベルの顰め面をした(ですよねェーッ!!)
 がっくりうなだれる俺に、露伴は仕方がないと言わんばかりに重たいため息を吐くと、
「ほら」
 差し出された手のひらが信じられなくて、俺はそれと露伴の顔を交互に見た。
「早くしろ」
 慌てて跳躍し、今にも引っ込みそうな手を掴む。
 不愉快だといわんばかりの顔をしている癖に、俺の体を支える手はしっかりとこちらの手を握り返してくれた。

 ――変な奴だけど。間違いなく変な奴だけども。悪い奴ではないよな。一応。

 一人ごちたところで、重力は反転した。
 露伴の家へと落ちて行く最中、これはすべて俺が見ている夢であり、目の前の露伴は本物の露伴ではないこと、そして恐らく自室のベッドの上で寝こけているであろう俺が眠りから目覚めつつあることにボンヤリと気が付いたのだけれど、

 このまま目を覚ましたら、適当な理由をつけて、露伴の家に遊びに行こうと思った。


20130315up

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