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▼ 無題


 黄金色のウィスキーを回しながら、男は嫣然と笑った。
「ホントつまらない奴だよな、アンタ」
 廃墟同然の、閑散としたバーには俺達以外誰も居ない。本来なら居るはずのマスターの姿も無いカウンターに並んで座っている俺たちの前には、空になった一つのグラスとアイスベールが置かれている。そこにまたもう一つ、空になったグラスが置かれる。カラリ、とロックアイスが音を立てて跳ねまわった。
「ホント、つまらない」
 歌うように男が口にするその言葉は、俺が男と出会って間もないころによく言われた言葉だった。当時、仕事に関しては優秀だが、その中で時々自分好みの快楽を優先する男に、俺はしばしば苦言を漏らしていた。それに対する男の決まり文句だった。
『そんな風に生きてて楽しいの』
 笑う男に、俺はいつかこう問うた。
『お前は楽しいのか』
 男は答えなかった。
「楽しかったよ」
 まるで俺の思考を読んだように男は言った。
 丸椅子の軋む音がして、気が付けば俺は男に抱きしめられていた。
 耳元に唇を寄せて、囁くように男は言う。
「このチームに居て、めちゃくちゃ楽しかった。だからアンタにも感謝してる。誰よりも。こればっかりは他の奴らには負けてないと思うぜ。俺が一番だ」
 首に回った腕が優しく俺を引き寄せる。俺は目を瞑ってそれを享受した。
「……負けず嫌いな奴らが煩いだろうな、きっと」
「あはは。それ、想像でき過ぎて笑える」





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