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▼ 無題


 屋根のない無人駅のホームで、俺はベンチに座っている。
 解放された青空からは容赦なく日差しが降り注ぎ、熱された石の地面がジリジリと音を立てるようだ。日陰は無い。ほとんど白く焼けるような視界に、辛うじて線路の影が見えるばかりだ。
 向かいのホームに、見知った人影があった。
 俺と同じようにベンチに佇むその男は、この暑いのにスーツ姿で、何かを考え込むように腕を組んで座っている。その姿勢は何処か余裕に満ちていて、遠目ではよくわからないがこちらを見ているようである。
 俺の視線に気づいているのだろう。言いたいことがあるなら言えよ。そう目で促されている様に感じて、俺は口を開いた。
「辛かったか」
 酷く喉が渇いていて、その問いは声にはならなかった。しかし、一拍置いて男の唇が『馬鹿だな』と刻むのが、何故か手に取るように読み取れた。
 ほんの少しだけ、男が困ったように微笑んだのが見えて俺は目を凝らしたが、けたたましい音と共にホームに入って来た無人の列車が、画用紙をクレヨンで塗りつぶす子供のように、乱暴に男の姿を掻き消してしまった。





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