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▼ 無題


 鼻につく焦げ臭い臭いの中で、男はあっけらんと笑った。
「ごめんな、死んじまって」
 でも役目は十分果たしただろ?
 俺はその言葉に頷くしかない。男は安心したように、ホッと息をついた。堪えていたものが安堵と共に溢れ出したのだろう。男の背中から、煤けたレンガの壁を伝い流れてゆく、ドロリとした赤黒い血。それはチロチロと燃える小さな火を舐めながら、ゆっくりと地面に広がって俺の足元を濡らした。
「心残りはまあ、ありまくるけどよ」
 男の腕が力なく持ち上がる。焼けただれた皮膚に、無数の銃撃の痕跡が穿たれていた。
「後悔は無いんだ」
 口角を歪ませて、焦げた男の手のひらが拳を形作る。
 向けられた拳に、俺は同じように拳をぶつけた。
「後は任せろ」
 俺の言葉と共に、笑みを浮かべたままの男の腕は力なく地に落ちた。
 もう片方の腕、深く切り裂かれた手首の傷からは絶え間なく血が流れて行く。
 俺はその血が止まるまでずっと、男の傍に立ち尽くしていた。





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