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▼ 美術館にて

 ……やっぱさ、絵って良いな。ずっと見てても全然飽きないし、楽しいよ。
 ……なんだよ、俺が絵が好きなのが意外だって?
 まあ絵画とか美術に詳しい奴って、大抵表現がどうとか、構図がどうとか、難しいこと言ってるもんな。どうしても高尚な感じがするし、ギャングなんかやってる俺が似合わないってのも、まあわからなくはないよ。
 でもさ、俺だって別に、そんな難しいこと考えて絵を眺めてるわけじゃないんだぜ。俺には俺なりの楽しみ方があるんだ。
 知りたい?
 教えてやっても良いけどさ、俺説明下手だから、うまく伝えられるか自信無いな。
 えっとな、俺のスタンド能力って、鏡の中に入ることが出来るだろ。光の反射がどうだとかじゃなくて、理屈抜きに存在する、左右逆転の世界にさ。だからかな、俺にとってさ、絵もそれと同じ感じなんだよ。絵の具を塗り重ねただけの平面じゃなくて、見えない何かを挟んだ向こうにある、別の世界のように感じるんだ。
 わかりにくい?
 うーん、じゃあさ、例えばホルマジオが鏡の前に立つとするだろ。そこには自分が映っていて、自分の部屋の壁が写っている。それを見てホルマジオはどう思う?……そう、それは唯の像だって思うだろう。質量なんてない、鏡が光を反射して出来た、唯の像だ。だけど俺にとっては違うんだ。俺が鏡の前に立つ時、そこに映る光景は像なんかじゃなくて、本当に存在するもう一の世界、マン・イン・ザ・ミラーが連れて行ってくれる別世界なんだ。奥行きがあって、広がりがあって、動きもある。絵も同じなんだよ。俺にとって額縁の中に描かれた世界は、こことは違う別の世界なんだ。ただし鏡の世界と違うのは、俺が入ることは出来ないということ、そして現実世界の理屈は一切関係ない、混沌とした場所だってことだ。だから俺は絵の前に立って、額縁の窓からその世界を眺めてまわる。綺麗だったり、幾何学的だったり、ぶっとんでたりする、無数にある世界を、俺は楽しんでいるってわけさ。
 ……って、なんだよホルマジオ、そんな変な顔して。
 俺がそんな風に絵を楽しんでいるなんて思わなかった?
 そりゃそうだろうな。こうして人に話したのだって初めてだし……マン・イン・ザ・ミラーがあってこその感覚なんだと思う。ホルマジオには無い?そういう自分だけの感覚っていうのがさ……特にない?そんなもんなのかな。
 ……なんだって?お前がそんなに物事を深く考えてるのが意外?
 ……あのさあ、はっきり言うけど、ホルマジオに言われたくないよ。
 ホルマジオはさ、今日は俺の付き添いで、こうして美術館に来た訳だけど、正直全ッ然似合ってないよ。めちゃくちゃ浮いてる。俺よりもね。ホルマジオの方こそ、体鍛えてばっかで、頭の方はからっきしなんじゃないの?
 ……って、痛い痛い痛い!暴れるなよ!ここ美術館だぞ!離れろってこら!おい、ホントに

「館内ではお静かに」

 ……俺、もう二度とホルマジオなんか誘わないからな。

 うるさいのはお互い様。20120926up

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