Wアンカー 乗車編 | ナノ



「随分な荷物よな?」


振り返れば古株と言われる先輩駅員がたっていた。
制帽を外し足元には相棒のサンダースが行儀よく座っている。彼はお疲れ様です!と返してみせると、何かあったんか?と首を傾げる。

それもそうだろう。

休憩中に外へと一服しに出た筈の彼の表情は明るく、紙袋いっぱいのお菓子を持っては嬉しそうな顔をする。
一体何しに行っていたのかと問えば、彼はスロットです!と、自信げに答えた。
いくらか休憩時間とは言え娯楽施設に行っていた事に、先輩であるクラウドはアホが!とひとなぐりする。

「いくら休憩中とは言え、勤務していることには変わらん!お前なにしn」
「いやー、だって今日の星座占いでラッキーアイテムがスロットなんてでてきたもんだから」
「阿呆!!そんなんテレビ側のーーー」
『何を騒いでる』

ゴツリと鈍い音が鳴る。
聞きなれたその声に二人の背中には、一瞬にして否な汗が吹き出る。
一人は口元が引きつり顔色は血の気が引いた蒼白。方やめんどくさいのがきた、と眉間に皺を寄せここをどう乗り切るかと思考する。
二人同時に振り返れば、制帽を被っていないジンが写り込む。
右手にはなにやら紙袋を持ち、左手には一本の缶が手の中で転がっている。その後ろからエテボースが顔を覗かせ、クラウドの足元に居たサンダースへと挨拶をする。

ジンのもつ紙袋にはシンプルなロゴが入っており、ギアステーション前で移動販売している軽食屋のものだと理解。時計はひる時を少し過ぎた所であり、ジンも昼食をとる為に外に出ていたらしい。

こんな昼間から喧嘩かと抱く駅長代理だが、駅員の持つ荷物が娯楽施設で配布している袋だと理解するや否や、鋭い目つきに加えて眉間に深い溝を作り出した。

『おい』
「ああああああああすみませんん!!!!!」

これからめっためたに叱られるのだとわかっているのだろう。
ジンの容赦ない言葉攻めに最後まで正常でいられる駅員はいない。
後半グズグズに涙を流し、古株駅員が止めに入るまで続くのだ。精神的にきついものがある。
目の前には古株のクラウドが居る。いくらかフォローは入れてくれるだろうが、地位的にはジンが上である。
最悪の場合彼を巻き込む事も・・・・・・・

『これ菓子か』
「へ?」

近づいてきたジンは駅員の持つ紙袋を覗き込む。
揺らめく前髪にヒェと変な悲鳴が出る駅員のわき腹を軽く叩けば、彼は慌てて姿勢を正す。
クラウドの隣に並んだ駅長代理。ここまで近くまで来たことのない彼に妙な緊張が生まれる。
そんなご主人の足元では、主人の気持ちなんて知らずに二匹のポケモンがじゃれ合っていた。
エテボースの二本の尾を付いてまわるサンダース。
キャッキャと遊びまわる二匹は頭上で起きていることに全く気がつかない。

駅員の持つ紙袋の中に注がれるのはジンの隻眼。
なぜこうなった?と線を合わせる同僚だが、当の本人は気付いてないのかその中身を覗く。
ふと、缶を持っていたジンの手が動く。
手の中で転がしていた缶を、駅員の持つ紙袋の上へと置いて見せた。そして何を思ったのか紙袋の中へと手を突っ込んだ。

突然の事に駅員は悲鳴をあげる。勿論その隣に居たクラウドも咄嗟に動くことが出来ず、目を丸くするしかない。

右へ左へ。
お菓子の中身を覗き込みながら自由に動く。その度にわ、わ!わ!と慌てる部下の悲鳴なんて耳に入ってない。
一体なにをしているのだろうか?
すると、中から一つのお菓子の袋を抜き出す。

袋にはジョウト地方独特の古い建物の写真が描かれ、大きく黒飴と書かれたロゴが目に付いた。
半透明な袋越しに見えるのは黒い粒。
包装されたそれが飴であると気付けば、他の二人は無意識に首を傾げる。
黒飴と書かれたそれに駅員は随分グロイものが混じっているのだと抱く。クラウドは見覚えのある懐かしいものだとこぼす。
彼の故郷であるジョウトでよく売られている飴の一つで、黒砂糖という普通の砂糖より一段と甘いものを使用している。その為あまりにも甘すぎる飴に一部の人しか食べきれない代物だが・・・・

『これで目をつぶってやる』

飴の入る袋を抜くと一緒に長い指で缶を持ち直す。
もう一つ持っていた紙袋を下へと移動させれば、サンダースと遊んでいたエテボースが尻尾で器用に受け取る。仄かに香るベーコンの匂いに混じる独特なある匂い。
それがジンが吸うタバコの匂いだと理解した時には、クラウドの隣から居なくなっていた。
顔をあげれば紙袋に手を突っ込むエテボースと、飴袋を開こうとするジンの後ろ姿がみえる。中身を取り出したエテボースの手にはポケモン専用のサンドイッチ。二本の尻尾で袋を持ち歩きながらほお張る。
床を殴るような音は相変わらず、徐々に遠ざかっていくのが分かる。
そして数分もしないうちにジンの姿はなく、唖然とした二人の駅員が残された。

てっきり小言の一つや二つくるもんだと身構えていたが、当の本人は景品の一つをとってはきえた。
去り際の一言により、彼が娯楽へと出て行った事には触れないでくれたのだろう。
が、あのジンだ。
次は無いだろう。

「こんのド阿呆!!!」
「あだ!!!」

ガチン!とまるで一昔の漫画の様な効果音が生まれた。
鈍い痛みと小さな熱を発する頭を抑える。咄嗟にしゃがみ込んでしまった為、紙袋から小さなお菓子が零れるも、ゲンコツを御見舞いしたクラウドは腕を組む。

「今回はあれで済んだが、次同じことしてみい!おもっくそあいつに絞られるで!!」

只でさえトゲを含んでいるのだ。
今日はたまたま機嫌がよかっただけだろ。

そう言えば、彼もあんな肝が冷える事は二度と体験したくないのか、涙声でそうします。
と答えた。
紙袋を床に置き、散らばったお菓子をかき集める。片手で頭を押さえ、手加減してくださいよと零す彼に、クラウドはため息しかでない。

左に嵌めている腕時計の針に、そろそろ休憩時間が終る。と思う脳内の片隅で、
あいつ、見かけによらず甘党なのかと考える古株駅員の姿があった。








150630




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