捧げ小説 | ナノ



ペアルックなそれは所詮鏡合わせでしかない産物。
お揃いなそれはコピーしただけの産物。
彼が赤を羽織れば彼女も赤に袖を通す。
友達が青を着込めば、お揃いだとその友達も青を選ぶ。

何がどう違うのか?何がどう異なるのか?
私の目に見える左右のそれはどちらも同じにしか見えない。
同じ格好して同じ色までして、何を思ってコピーし鏡合わせにしたそれにするのか?
己の主張と言う物は無いのか?
相手と同じ色を同じ物を着込むのに私は個性が無いと思う。揃いも揃って、何一つ変わらない。
もっとはっきりとして欲しいものだ。


「君らみたいに」

「え?なんの事?」


シャンデラに触れていたクダリが此方へと振り返る。しかし、まだかまってほしいのかグリグリと頬を押し付ける。


「いきなりどうしたのですか?」

クダリと入れ替わる用に入ってきたのはノボリ。フーズが積まれた器を床に置けば、どこからともなくバチュルの大群がそれへと群がる。ゆっくりと現れたシビルドンも、バチュルを避けるようにフーズを食べる姿を見守る。
隣に腰掛けたノボリにシャンデラを撫でながらなクダリ。二人の視線を集めた私は腕を組んでみせる。

「よくもまぁ、揃いも揃って同じ色のやつ着れるわね?って思ったの」

同じ物を着る?
初めその単語の意味が分からない二人は顔を見合わせる。勿論それが視界に入っている#name#だが、あえて何も言わずそのまま話を続けた。


「まだ服装が被るまでは我慢するよ?でもさ?でもさ?なんでわざわざ相手と同じ色を選ぶかな?って思うわけ」

パチパチクリクリ。
未だに意図を理解出来ないクダリがむ?うん?と左右に首を傾げれば、釣られて揺れるシャンデラが凄く可愛いと抱く。

傍ら、ノボリは何かに気付いたのかふむ。となにやら考え込む仕草。
仕方ない。クダリの為にはっきりと言ってやるしか無いわね。

私が指差した先。
其処には電源の入ったテレビ。薄い液晶画面には可愛らしいアナウンサーが何やら実況している。
何かを呟く彼女だが、残念ながらそれらの内容には興味が無い。


「このアナウンサー。シャツからスカートまで青一色の格好とか可笑しくない?普通、上が青だったら下は違う色にするものじゃない?」

「あー………」頬をかいたクダリが何やら歯切れの悪そうな表情を作り出す。ノボリもそう思わない?と同意を求めれば一拍置いてから確かに、その通りで御座いますね。と首をふる。

「昨日久々に街へ買い物行った時だって、上下おんなじ単色の洋服。たまに上下違う洋服着てる人も見かけるけど、単色よ?単色!」

ファッションセンスのかけらも無いわね!あんた達を見習ってほしいものよ!


ソファーに深く沈む私。なんだかかっかっしてきた。
少し落ち着かせる為にお茶でも入れようかと考え出せば、頭上からクスクスと控えめな笑みが生まれる。

何よ?

と、きっと不機嫌な面してるんだろうと思いながら見上げれば、失礼しました。と口元を隠す。


「いえ、#name#は細かい所まで見ているのだと思いまして」

「細かい云々じゃないわ。ああも明らかな単色ばっかりな格好して恥ずかしくないのかと思っただけよ」

「僕らもほとんど単色だよ?」



やっと意味を理解したクダリが、胡座をかきながら此方へと向き直る。
胡座の中におさまるシャンデラが可愛すぎる。ちょっと誰か写真とっておいてほしい。

「なに言ってるの?あんた達はちゃんとオシャレな格好に、綺麗な色の組み合わせしてるじゃない」

単色だらけの中に一際目立つ鏡合わせなフルカラー。
まるで周りの世界から離れた場所にいるかの様な雰囲気。違和感だらけな存在を醸し出す二人は虹色で、すれ違う人ごみの中でも一際目を引く。
迷子になっても直ぐに見つけれる位。

そんな単色だらけでありふれてる周りが嫌で、私は街から離れた緑で溢れる森の中にあるこの家に立てこもった。

単色ばかりの人が横切る世界は何かと目が疲れて仕方ない。
深い緑の中にポツリと存在するフルカラーな双子。
これ位の色の組み合わせが丁度いい。




「私、あんた達と一緒の方が気が楽だわ」


零れる程度の弱い言霊。
だけどそれをすぐさま拾い上げた2つが、#name#へとダイブする。
横から。前から。
2つの腕が自身を締め上げる。ギリギリと悲鳴をあげる体に私はすぐさま引き離そうともするが、大の大人二人をか弱い私が離せる訳もなくただ締め上げられていくのを感じるしか無かった。


「それってつまり、僕達しか見れてないって事だよね!」

「つまりはそう言う事ですね!」


ギュッギュッ!更にギューッと抱き締めてくる2つの存在が、何やら嬉しそうで花を咲かせているのが分かる。

相変わらずこの二人の意図は理解出来ない。
今に始まった事じゃない。昔からこの二人には理解し難い行動ばかりで、私はいつもそれに巻き込まれている。
この家にだって、先に住んでいたのは私だけで………


私だけ………?





一瞬にして切り替わった視界には、様々な色を混じり合わせた何かが広がっていく。
建物、看板、道路に人に………

あれ?可笑しいね?単色だよね?
ノボリとクダリ以外の景色全ては単色で、見るに耐えなくなって……いつから…………?






「ねぇ……#name#。僕達ってさ」

「#name#様だけの特別な存在で御座いますよね?」










机の上にポツリと置かれたボール。
どちらの手持ちかは分からないが、確かあの中にはオーベムがいた記憶がある。

オーベム?

オーベムって確かノボリとクダリが捕まえてきた子で……ちょっと待って






一年前の記憶を思い出せないのは何故?










単色とフルカラー











120731


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