捧げ小説 | ナノ



「………………」


昨日も一昨日もそのまた前の日も、ずっと変わらず日常生活に混ぜ込んだ日課。
そのポケモン専用のブラシを買い、気持ちよさそうに目を瞑る私のパートナーが膝の上に乗っている。

筈だった。



「ミニリュウ、ミニリュウ」

「……………」


返事がない。ただの屍のようだ。
脳裏をよぎった意味不明な言葉を振り払うかのように、持っているブラシくるりと回せどミニリュウは此方へと振り向いてはくれない。
普段ならブラシを持った瞬間に喜んで飛んでくる筈なのに。

昨日は友人が来ていたため、あまり相手に出来なかったから尚更ミニリュウは私に付いてまわると思ってた。だけど、朝起きてご飯を食べても、室内で掃除機ひっぱりまわしても、洗濯物で前が見えず危うく転びそうになってもミニリュウはこれと言った反応は見せなかった。
特等席といっても過言ではない大きなビーズクッションの上、ミニリュウは私へと背を向けながら蜷局を巻いていた。


うーん…朝ご飯嫌いなフーズだったかな?
と、ミニリュウ用の受け皿をのぞき込むも見事なまでに空っぽで、一粒残さず綺麗に平らげたのだと分かる。
なら、散歩に行きたいのかな?
チラリと覗き込んだカーテンの向こう側は生憎の雨。ミニリュウには珍しい雨嫌いなこの子にとっては最悪の天候。
お気に入りの玩具が壊れた?
ミニリュウ用の玩具箱にも異変は見つからない。


うん…。本当に原因は何なのだろうか?

家事をしながら考えて居たが、これだ!と言った原因がわからないまま。
悩みに悩んだがさっぱり思い出せない私は、すぐさま白旗を振りミニリュウお気に入りのブラシをもって近寄る。

私が近寄ってきた事に気がついたのか、より音を拾おうとピクピク動く耳が可愛くギュッとしたい気持ちを噛み締める。




「ミニリュウ……」

「………」

「ミニリュウ、ミニリュウ」

「……………」

「ミニリュウさーん?」

「……………」

「…………」

「………ミニたん」


あ、いま尾がピクッとした。
いや、うん。違う違う。そこじゃない。
可愛いけどそこじゃないんだよ。
もっと名前呼んで反応を見たい所だが、ミニリュウからすれば不愉快であろ。向こうはトレーナーの私を無視するほど本気なのだから……。


「ミニリュウ、なにかあったの?」

「……………」

「うーん………私がなにかしたかな?」

ピタン。
尾がビーズクッションを叩いた。
なるほど。やはりと言うべきか、原因は私自身にあった模様。しかし、私はミニリュウになにかをした。と言う覚えはない。
ご飯を食べる邪魔もしてなければ、一緒に湯船に浸かっていたし…寝るときもこのビーズクッションに沈みながら可愛らしいいびきをあげていた位で………

しかし、それはミニリュウの機嫌が悪くなる一昨日の日であっていまではない。

朝起きておはようの返事も無ければ、用意したご飯は私をチラ見しながら食事していたのを思い出す。それからはずっとこのクッションから離れた様子はない。
長時間構ってあげてなかったのも原因だと思うけど、それだけでここまでグレたりするような子じゃない。

そういえば、昨日遊びに来た友人がドラゴンポケモン用の新しくフーズが発売されたと聞いた。
しかしあれはカントージョウト地方限定の商品だから、イッシュ地方で手に入れるのは難しいかも。
なんて会話を聞いていたのかもしれない。


「ミニリュウ。ドラゴンポケモン用の新しくフーズが欲しいの?」


反応は無い。
ポケモンフーズではない?

なら、ポケモンフーズいらないよね?と小さく呟いて見れば、慌ただしくパシパシとビーズクッションを叩きつける。
原因はポケモンフーズじゃないけど欲しい訳か。

再び私は頭を抱える。
腕を組み、昨日ミニリュウが不機嫌になる元を1からたどってみよう。

朝、いつも通りに起きた後、私とミニリュウが友人が来るまで部屋の片付けをしていた。
お菓子も飲み物も準備万端!っと言うタイミングで、友人が来たのだ。カントーの仕事が忙しい中わざわざ来てくれた友人。少しでもリラックスできたらいいなと用意した人気の洋菓子店のクッキーは、友人の口に合ったみたいで帰りに寄ってくとまで言っていた。
違う。違う。話はそこじゃない。
えっと……ポケモンバトル関係の仕事についている友人は、ポケモンの事むしろドラゴンポケモンに詳しくてミニリュウも凄く懐いていた。ドラゴンポケモンの子供は肌が繊細で、ボディーケアが必要みたいな詳しい話を交わしたり……。
そういえば、友人が珍しく自身のポケモン、卵から孵化したばかりのミニリュウを私へと紹介してくれて………




「(……………あ)」



持っていたブラシへと目線が向かう。
昨日は友人のミニリュウをブラッシングして、つやつやな鱗に一人うっとりしていたっけか……。

でも、よく考えると使ったそのブラシはミニリュウの為のものであり、他のミニリュウに使われしかも自分を放っておかれ綺麗にブラッシングされればムム!とするものだ。


ああ、そう言う事か……。

思い返して見れば、友人のミニリュウをブラッシングしている中、珍しく私のミニリュウは鳴きもせずじっと私を見てたっけか……。


原因がわかった。

他のポケモンをブラッシングしておきながら、自分はしてくれないトレーナーに怒って居るのだ。

ついこぼれ落ちのは小さな笑み。
空気がフッと揺れて、それに気付いたミニリュウが遠慮がちに此方を振り向いたのが分かる。

キラキラした黒真珠の瞑らな瞳がパチリと瞬きをした。



「嫉妬させちゃったね」



ごめんね?
仲直りしの印に、ブラッシングしたいな。
勿論、飛びっきり綺麗になるまで。






しゃがみこんで覗いたミニリュウの顔。
飛びっきり綺麗にブラッシング。

その単語がミニリュウの中で響いたのか、不機嫌だった小さなポケモンは喜びのあまりタンタンとビーズクッションを叩くのだった。


















ペシペシタンタン










120614


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