Wアンカー 運休編 | ナノ







「……どう思う?」

「うーん…恋人?」

「でも、あの人の様子からそれっぽい雰囲気は感じないよ?」

「取り立てとか?」

「俺事取り立てして欲しいよ」



監視カメラ越しに映された液晶画面。画面を占領するのは、麗しい一人の女性だった。彼女は近くの広告ポスターを見上げ、微動だにしない。

「彼女にしたってあの駅長代理だよ?包容力あると思う?」

《ない》


液晶画面を見つめるオペレーター達は口を揃えて言った。
ある昼過ぎの司令内部。昼食を取りに出掛けた従業員と、彼等が戻って来るまで待機している従業員が其処にいた。いつものように、人で混み合うステーション内の監視及び、規則正しく流れる数字の羅列解析を行っている。そんな中飛び込んで来た情報。
駅長代理ジンを探している女性がいる。と言う、好奇心にかられる話しが飛び込んできた。
駅長代理とは言え今のギアステーションの責任者。会うとなればそれなりの手順を踏んで、後日…と言う流れが一般常識だが、画面に映り込む彼女にはそれが通用しなかったと話が流れてきた。
何でも彼女はポケモン協会直々公認トレーナーカードを持っていたらしい。

ポケモン協会公認トレーナーカードを所有するトレーナーは数えるぐらいしかいない。直々となると更に数は減る。ポケモン協会の上に立つ理事長公認となるのだトレーナーとしての腕は高くなければ貰えないと言う噂。
このトレーナーカードを持っていると、公共施設や立ち入り禁止区域と言った様々な場所を行き来出来る。尚且つ、アポなしで直接機関の幹部や上層部と会う事が出来るのだ。
しかし、どこでも使える訳でも無ければ、それ相応の厳守も存在する。
ポケモンをメインとする企業のみ使用可能。そして、秩序を乱す対象が現れた場合、即座に対処し機関に従い対処に当たる。等々様々。
噂でしか聞いたことのないそれは、嘘か誠か信じがたいものだ。しかし、現に彼女は数少ない協会直々の公認トレーナーカードを持ち、ジンとの面会で待機中。
もしかしたらそのトレーナーカードが偽物或いは、本人から盗み出したものかと言う場合を想定し本人にしか分からないロック番号を確認した所一致。トレーナーカードの本人だと承認した。

実力であるポケモントレーナーと言えよう。そんな人物のアポなし訪問。
初めは彼女か否か、生き別れた姉弟?外見的に有り得ないだろ?と様々な話が交差する。


「彼女にしてはやけにピリピリしてない?」

「あ、それ俺も思った。なんか、眉間にちょっと皺がよってる感じな」

「浮気的な匂いがするんですが」

「駅長代理浮気してるの?!相手は誰?お客さん?!」


勝手に話を盛り上げるオペレーター達に、その傍ら黙々と仕事している従業員は苦笑いを浮かべる。
プライベート所か隙を一切見せないジンだからこそ、皆揃って興味津々。他の従業員と言えど、駅長代理に女性がやってきたとなれば内容へと耳を傾けたくなる。実際詳しい話を聞きたくてうずうず従業員もいる位だ。

「あ!駅長代理!」


一人のオペレーターがある画面にて指を指す。金髪の女性をみていたオペレーター達は、すぐさま指された画面を見やるも其処には何も映って居ない。
が、その隣の画面から飛び出た影。
それが駅長代理のマントだと把握した頃には、カメラの画面外へと消えていた。

ジンが疾走していた。しかも、画面が切り替わった瞬間に既に消えている程。後からエテボースとポワルンが追いかけるも、それよりも早くジンが廊下を駆け抜けていた。
その様子に彼等は、ただ事ではないのかも知れない。と抱く。小さな不安が胸をよぎる。


「ね…ねぇ、確かポケモン協会公認トレーナーカード持ってる人って、秩序を乱す対象に即座に対応って話聞いた事有るんだけど……」

誰かの喉が鳴る。

秩序を乱すと言っても社内や、企業内部と言う意味ではない。治安的な意味を指しており、環境破壊、ポケモンと人間との関係を悪くする元凶に対して言う。

こう言った作業は警察側がおこなう物だが、相手側の権力や圧力により満足に調査出来ない場合ある。ただ指をくわえているだけでは治安が乱れる。そこで出てくるのがこの公認トレーナー。
もし、その企業がポケモンを使用している場合、企業としての特許と共にポケモンを扱うとしてポケモン協会から公式に特許を貰わなければならない。
全世界と言っても過言ではない位、この特許を持ってる。故に、協会から連絡を受けたトレーナーが派遣され、様々な事へと調査に乗り出す。ポケモン協会公認トレーナーが訪問。警察側では調査出来ない問題を協会側のトレーナーが調査出来る。
調査に来る。つまり何かしらその機関に問題があると言う訳だ。

それに気が付いた途端、司令内部にいる全員の顔色が悪くなった。
このギアステーション内部で、何かが起きていたらしい。自分達の知らない所で、しかも数少ない協会の公認トレーナーが出てくるとなれば……


「ヤバくないですかこれ?」

「誰か悪い事してたって事…か?」

「そのうち立ち入り調査で一気にギアステーションへ警察が来るとか…」

背中が一気にぞわぞわした。もし、あの女性が探していた悪い何かを発見した場合、此処ギアステーションに一斉調査と 言う名で警察が入ってくる可能性がある。自身達は悪い事をしたと言う覚えはない為、堂々としていればよい。だが、世間は違う。
ギアステーションを見る目が変わるのは事実。自身達は関係ないと言った所で、世間は彼等を一つとしてしか見ない。
客足が遠のき、利用者が減りまともに給料を貰えない可能性がある。そうなればギアステーションに勤める事は出来なくなり、就職活動に出た所で履歴を見られそろえた書類はシュレッター行き。
暗転である。

司令部が一気に騒ぎ出した。

まずいよ俺まだローン残ってる!
俺彼女にプロポーズしたばっかりだよ!
終わる…僕の人生がいま此処で終わる。
誰か駅長代理を止めろよ!

ギャーギャーと騒ぎ立てる司令部。
その時部屋の前を偶々通りかかった駅員が居たが、彼曰く此処の従業員達は相変わらず仲良しだと零していたのは数日後の話らしい。


「うわああ!駅長代理が……!」


金髪の女性が居る部屋へと到着した。
司令部が静まり返る。
もうだめだ
終わった
そんな単語が脳裏をよぎった瞬間だった。






「…ア、れ?」










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