Wアンカー 運休編 | ナノ





トレインがホームへと到着。無事着いた事を知らせるメロディーと共に、女性のアナウンスが始まる。
先にホームへと降り立ったのはジンだ。ゴツリと鳴った足元。翻す腰のマントと共に振り返った。

『ダブルトレインご乗車頂き誠にありがとう御座います。敗者はバトルトレイン下車が此処のルール。あなたとのバトルで負けた私は、此方のホームで下車させて頂きます』

これがスーパーダブルトレイン乗車券となります。

チャレンジャーへと渡されたのは一枚の乗車券。スーパーダブルトレインフリーとかかれたそれを受け取るチャレンジャー。だが、その顔は浮かないもので、定期券をただただじっと見つめるだけだ。

『お客様はそのままご乗車下さい。ダブルトレインの勝者は一度受け付けカウンターへと戻って頂き、スーパートレインへの乗車登録手続きを行います。お時間は取りません。トレーナーカードを専用端末にリーダーして頂くのみです』


スーパーダブルトレインは強者揃いです。49車両目にて、あなたをお待ちしてーー

淡々と言葉を並べるジンにストップをかけた。誰でもない小さなチャレンジャーである。

違う!

と張られた声は誰も居ないホームに響き渡る。こだまする先は暗闇で、黒に飲み込まれるのは鈍い光を放つ線路のみ。


「……ねぇ、なんで?」

『………』

「最後、手を抜いたでしょ?ギギアルがほうでん放ったとき、ジンさんポケモンに指示しなかった」


最後のあの瞬間。チャレンジャーは回避されると先を読みそれに対する手を考えていた。吹き飛ぶランプラーと突っ込むギギアルの先、ランターンとカブトプスが構えジンの指示に従うべき体勢をとっていたのが見えていた。
カブトプスのアクアジェットかはたまたランターンの波乗りか?ギギアルをどう動かし出来るだけワザを受けず2体にダメージを与えれるか?どのタイミングでランプラーを戻すか?先の先の、更なる先を考えていたのだ。
此処で負けたらまた20連勝し直さなければならない。バトルが得意な少年からすればそれ程苦でもなければ、逆に簡単にこの車両までこれる。だが、違う。
ダブルトレインで20勝しジンへと会いにこれたとしても、そこで広がるバトルの世界一つ一つは異なる。
そして今回初めてダブルトレインに乗車し、たった一回のチャレンジでスーパーへの乗車券をゲット。胸の高まりは止まらない筈だ。が、それは満足いくバトルをした時に起きるもの。

今のバトルにはそれが無かった。

最後の最後でジンが手を抜いた。

少年の目にはそう写った。満足行かなかった。ギリギリの切羽詰まったあの緊張感の中でのバトル。途中までその気持ちはあったのだ。
ジンがポケモンに指示を出さなかったその瞬間まで。


「まさかそうやってスーパーへ進むトレーナーを増やしているの?……やだよ!そんな形で僕スーパーに乗りたくない!」

ねぇ、なんで手を抜いたの?
お願い、教えて。

気がついたら少年が此方を見上げていた。浮かない顔はどこへやら。真っ直ぐと見つめるその顔つきにヒクリとジンの口端が引きつる。勿論それに気付いた少年はえ?と小さく零した。


『本気で言ってんのか?』

「あ…あのーー」





『お前のバトル、つまんねーよ』

「………え?」

『その歳で行うバトルじゃねーよ。ダブルトレインでやるバトルスタイルが糞だと言ってんだ。同じ歳のトレーナーのダブルバトル見て来い』


吐き捨てるかのように投げられた言葉はトゲまみれで、一瞬だけ覗いた犬牙で更なる恐怖を抱く。
グズリグズリと胸に突き刺さる言葉に、この現状に頭が追いつかない。
ジンが言っているのは少年のバトルスタイルの事だろう。
それくらい分かった。
そして何を指して居るのかも。

なんでそんな事言うの?


だって、だってーー


「これがダブルバトルなんでしょう?」


大好きなパソコンでネット世界を見てきた。バトル掲示板には様々なバトルスタイルが載せられていて、シングルとは違ったダブルは出来る事が限られているとーー
味方を巻き込んでのバトルスタイルが多く載っていた。勿論そのスタイルは先ほどジンも使っており、同じ事をした自分が何故そんな事を言われなければならないのか分からない。
なにがいけなかった?なにがダメだった?誉めてくれる筈でしょ?

だのに、何故?


ホームに鳴り響いたメロディー。出発を知らせるもので、ジンは一歩下がり白線の向こう側へと行ってしまう。


『スーパーに乗るかはお前の自由だ。だが忘れるな』


同じバトルをしてみろ、私は同じ結果でお前を迎えてやる。


制帽をかぶりなおしたジンが一礼をする。
ご乗車ありがとう御座いました。

またのお越しをお待ちして居ります。


ドアが閉まる。
空気が抜ける音と共に白いドアは閉まり、動かなかったトレインはゆっくりと走り出す。

ガタンと足元が揺れる。

先ほどまで明るかった車内はすぐさま薄暗さが混ざり合う世界へと入れ替わる。黒で塗りつぶされたトンネルに入ったのだろう。車内ランプが反応し、薄暗さを打ち消すかのように明るさが増した。

少年は動かない。

再び足元が揺れる。

その拍子に少年は座り込んでしまう。
雨の止んだトレイン内の床は冷たく、ズボンが水を吸い込んでいるのを感じる。床に落としてしまった乗車券。
防水性があるのか水を吸ってないのを見る限り安堵する。が、何故かそれを拾う気にはならなかった。
スーパーダブルトレイン乗車券。
これさえあればいつでもスーパーに乗車できる。そう、いつでもだ。今度は48連勝しなければならないが、そんな事はどうでもいい。
どうでもいいのだ。
肝心なのは……





「ねぇ、なんでかな?」



少年の問いに答える存在(モノ)は居ない。
無人と化したトレインには誰も居らず、回復用にと置かれたパソコンが無機質な起動音を鳴らす。

パネルには四体のポケモンのシルエット。4つのボールがセットされるも内三体は瀕死状態であり、動く事が出来ない。しかし、たった一つのボールだけはガタガタと存在を主張するように震える。

その存在にチャレンジャー、名をクダリと登録する少年には届かなかった。















140125


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