Wアンカー 運休編 | ナノ




ハイリンクとは異世界叉はパラレルワールドと呼ばれる世界の住人が違う世界へ行き来出来るシステムである。だが、むやみやたらに行き来を繰り返したり、その数を増やしてしまってはハイリンクのバランスが崩れ、最悪崩壊しかねない。

そこで異世界へと飛ぶトレーナー(別名、渡り鳥と呼ばれる)彼らを一部だけと絞り異世界交流として活動を許可していた。
会社名はグローバルハイリンク。
そんなグローバルハイリンク社からギアステーションへとある企画に参加しないかと話しがやってきたのは、ついこの間の話し。

新しい路線を増やさないか。

名前はWi-Fi線と言われ、ハイリンクを管轄するグローバルハイリンク社が企画した路線だ。
本来、鉄道となればそれを管轄とする組織が動くものだが、このWi-Fi線は特別で鉄道会社総本部であるトレイン協会が全て手を付ける事が出来なかった。

管轄はグローバルハイリンク社側。そして場所を貸して欲しいと言われたのがギアステーションだ。

企画の内容は、ハイリンクの許可が下りなかったトレーナーが、Wi-Fi線を通して異世界のトレーナーとバトルできるシステムだ。

Wi-Fi線の管轄はグローバルハイリンク社。Wi-Fi線専用の車両に異世界トレーナーのデータを元に人を作り上げる。集計されたデータは順位付けされ、車両事に挑戦者を迎えうつと言う流れだ。流れ自体バトルサブウェイと変わらないが、強いて言うならばWi-Fi線の中のトレーナーは異世界トレーナーの実力そのもの。駅長代理のジンよりも腕のたつトレーナーが溢れかえっているのは当たり前な話しである。

そして何より、このWi-Fi線には挑戦者が現れない限りホームへと姿を現さない。
挑戦者がWi-Fi線のトレインに乗車すると切符を買ったと同時に、どこからともなくトレインは姿を現しては扉を開ける。
まるで幽霊のようだと思われるが、企画元はグローバルハイリンクだと言えば不安感は薄らぐ。
中にはWi-Fi線へと挑戦したトレーナーのデータを収集し、異世界でのWi-Fi線にそのトレーナーが現れる事もあるのだ。
ハイリンクの許可が下りなかったトレーナーからすれば、なんとも嬉しい企画だ。

だが、ただ一人だけ。表情を曇らせ、首を縦にふる事が出来ない人物がいた。


『企画自体問題有りません。新たな路線を増やせばギアステーションの宣伝にもなり、同時にライモンへと足を運ぶ人も増え街は更に活性化する』

「しかし、問題があるのでしょう?
私共ではお力になれない事でしょうか?」

『こればかりはなんとも……』


駅長室のすぐ近くにあるそれは応接室。
上質なソファーに腰掛けるジンは目の前の書類へと目を通すも、直ぐに別の書類へと視線を走らせた。

きっちりとかかれた予算表に導入する機械の詳細。バトルシステムの内容に流れに、BPシステムや交換アイテム一覧。
どれを取っても問題なんてなかった。

むしろ、よくもここまで書類を作り上げたものだと思う。その分、この会社は今回の企画に熱を入れていると言う事が理解出来る。

グローバルハイリンク社と言っても、独立した企業ではない。
ポケモン協会が管轄とした組織の一つで、規定に従い動く会社だ。
ただ単に組織の分野が、異世界を行き来できるトレーナーの数に規制をかけているだけで、やっている行為自体ポケモンセンターやジムと言った組織とは何も変わらない。

グローバルハイリンク社での企画。と言う事はポケモン協会からの許可は下りていると言う事だ。
どこにも問題はない。だが、導入するに当たって様々な問題が生じるのもまた事実である。


『挑戦者が出ればトレインが姿を現れる事はない。だが、その間を維持する事への人手が足りない』


Wi-Fi線だけ無人にする訳にはいかない。
受付カウンターに人を置き、電工掲示板のメンテナンス作業に入る作業員も必要であれば、ホームを綺麗にする為の清掃員も居なければならない。
だが、今ギアステーションで動いている従業員だけではどうしても足りない。
いや、回せない事もないのだ。だが、それは必然的に従業員の出勤日数が増え、休日が減る。
此処で働く従業員全てがギアステーションの為に命かけて働いて居る訳ではない。下手をすれば今より人手が足りなくなり、ダイヤを管理出来ずステーション内がパニックとなる。
そして一番の問題はーー

『私はずっと此処にいる訳では無いのです』

ジンはあくまでも駅長゙代理゙。新たなサブウェイマスターそして駅長がくるまでの繋ぎと言う存在だ。
もし、今ここで首をたてにふった場合、今後の引き継ぎ作業が膨大となるのは目に見えていた。人によっては、頭に詰め込む事が出来ず放棄する可能性がある。


「今回の企画は直ぐに、と言う訳では有りません。Wi-Fi線の路線メンテナンスなどがある為、数年はかかります。その間に見つかる事は出来ないのでしょうか?」

『人手は新卒問わず募集をかければ、ギリギリ解消されるかも知れません。だが、私の立場の引き継ぎとなれば……』

一般人なんてなれる訳がない。
せめて、駅員としての経験を積み、且つ事務業務にポケモンバトルを行うトレーナーで無ければならない。では、ギアステーション内の従業員から。と言う選択も有るが、亡くなられた前サブウェイマスターの面影を強く残す従業員達には荷が重すぎる。


「いいトレーナーは居ないのでしょうか?」

『現役のトレーナーを引っ張って来るか、ポケモン協会側に依頼するしか………』

「………………」


相手は残念そうな顔を浮かべる。
場所や企画内容は問題ないものの、人の手となれば直ぐに揃えれるものではない。だが、ジン自身、ギアステーションの利用客が増える事には賛成だ。
今ここで、この企画を断る訳には勿体無い気がしてならない。

『少しお時間を頂いて宜しいですか?』

「え!?」

『今回の企画を見送るにしては勿体無いすぎます。人手の件でトレイン協会へ問い合わせてみます』

一週間以内にはまたご連絡致します。


そんな会談をしたのが2日前。
何とか出来ないものかとトレイン協会へと問い合わせ、総本部にまで足を運び現在トレーニング中の駅員&ポケモントレーナーを視察してきた。
が、満足いくトレーナーが1人として居なかった。
流石に両立出来るトレーナーは居らず、能力がどちらかへと傾きアンバランスである事にジンは表情をしかめる。

では、ポケモン協会へと考えるもトレーナーである事を一途に思う者が多く、駅員としての頑張ろうなどと言う考えが無く全て断られてしまった。期限はあと5日。

ダブルトレインは車両メンテナンスを行っている為暫くは運休だ。
次にシングルトレインだが協会へと出張する事をサブウェイトレーナー達に告げた為か、21車両目へと向かわせないとヤケに張り切っていたのを覚えている(今までなかった事だ)。
スーパーには既に数人のトレーナーが最終車両へとたどり着いて居たが、出張していると伝えれば次回再戦出来れば構わないと言葉を貰った。

だが、これをあと5日も続ける訳にはいかない。
早く、早く次のサブウェイマスターと駅長を探し出さなければ………。
頭を抱えトレイン協会側から届いたトレーナー兼駅員見習い一覧表を眺めていたジンへ、ふと影がさしかかった。


『………なんだ』


書類にかかる影が邪魔だ。一枚の一覧表を手に取り、ソファーの背もたれへと寄りかかれば明るい蛍光灯が光を注ぐ。


「……あんた、グローバルハイリンク社の企画参加せんのか?」

歯切れ悪そうに零すそれを隻眼が見上げる。其処には今日の分の書類を届けに来た古株駅員、クラウドの姿があった。

従業員にはグローバルハイリンク社からの新たな企画の件で話しはしていた。
詳しい詳細は従業員が行き交う廊下隅にある掲示板に貼っている。企画に参加するかしないかは別として、今回新たにWi-Fi線が開通した際のメリットとデメリットまでかかれていた。
もし開通した際の従業員達の仕事は量を増し、耐えきれずに辞めていく者が出る可能性を予測しての事。この内容をみて、様々な意見が上がると見越して今後の事へ参考にしようかと考えてたが、不思議な事に従業員からは何一つ意見所か不平不満が上がって来なかった。

何を考えて居るのか。

そんな矢先、クラウドが例の企画の件で声をかけてきたのだ。


『ギアステーションの利用客が増える企画ならば喜んで参加する。だが、問題が多すぎる』

「人手不足なら、来年度の新卒募集かければええやろ」

『その年にならなければ分からないが、一応それで従業員の頭数を揃えたとする。だが……』


途中で途切れたジンの台詞に彼は首を傾げる。

ジン1人では回しきれない仕事になる。駅員と作業員は専門のスクールから募集をかけ、清掃員はパート叉はアルバイトと言う形でかき集める。だが、Wi-Fi線が開通したと同時に増える仕事はジンとて同じ。全てをグローバルハイリンク社が指揮する訳でない。
イッシュ地方のど真ん中に存在するハイリンクの森で、空間の歪みなどが生じればすぐさまWi-Fi線を停止させ挑戦者を安全な場所へと避難させなければならない。ここら辺りは企画書類に記載されていた役割分担である。
Wi-Fi線に異常が見つかった際の運転休止の指示を出そうにも、ジンがトレインにて挑戦者とバトルしていては無理な話し。


『(仮のサブウェイマスターを作るべきか)』


だが、今現在それに近い実力者は居ない。
どうすべきか……。

もし、本当に5日以内に見つからない場合。せっかくの企画を断るしかない。大きな駅と言えばここイッシュ地方か、はたまた遠い地方のカロス地方となるだろう。だが、カロスにはハイリンクの森はない筈。このままの流れでは企画そのものがーー。


「……ワイらが」

『…?』

クラウドが何かを零す。
書類は全て受け取った。普段の彼ならば室内に漂う煙草の煙に眉をよせ、そそくさと出て行くものだが……。
ふと顔が上がる。
其処には、どこか目を泳がせながらもジンと向き合う古株の姿があった。

「ワイらが、あ、あんたのサポート、したる…」

『は?』

「サポートしたる!言うてるんや!」


その台詞にジンの口元が一瞬引きつった。続けて、空耳か?と顔を上げれば、ちゃんと聞いとれ!と机を叩いた。


「あんたが回せない仕事を、ワイらがサポートしたるって言うてるん!」

ぜぇぜぇ、と声を荒げたクラウド。
ため息を一つ零したジンは、机の上に置いていた煙草を手に取り、火を付けながらクラウドへと向き直った。


『どう言う風の吹き回しだ』


従業員がジンに対する感情は良いものではない。勿論それをわかりきっている駅長代理様では有るが、気にとめる問題ではないと自分の思うスタイルを貫いてきた。
この溝が埋まる事はないと思っていたが……。

「あんたが悩んで居るのは、次のサブウェイマスターを任せられるトレーナーがおらん事やろ」

仕事が増えるのは誰もが同じ。従業員は複数おり、カバーし合いが出来るもののジンの隣には誰も居ない。
いくらグローバルハイリンク社が仕事の半分を受けるとは言え、1人で行う点に変わりはないのだ。このまま企画に参加した場合、トラブルが起きた時に対応しきれない。


『独断か』

「従業員全員の答えや。ここ(ギアステーション)に沢山の人が来て欲しい気持ちは皆一緒やで」


大手会社からの企画だ。自身等の意地のせいで水の泡にしたくない。
それにーー


「あんたがギアステーションを良くしようとしている思いはワイらとおんなじや」

ジンの行動そして言動全てが気にくわないし癪に触る。
だが、ギアステーションの為にと一番に動いている事に、従業員達は気付き始めていた。女性専用トレインの導入、ステーション案内掲示板の修正に、盲人向けの床パネル等々。数え切れなくなり始めたそれに利用客からは助かったの声を聞いた。
だけではない。
以前起きた地下鉄へと漏れ出した水漏れの件、そして事故で片腕を無くてもなお昨日と変わらない様子で仕事する様。
ジンへの感情が徐々に変わり始めていた。

クラウドが早口で告げる。サブウェイマスターが見つかるまで、一時休戦したる!勘違いするなよ、これはワイらみんなで考えた事であってあんたに余計な負担がかからんようにとかな考えは全く無く、だからーー。マシンガンの様に止まらない言葉を遮ったのは誰でもないジンただ1人。
ピシッと紫煙が立ち上がるそれで静止をかけた。

『野郎のツンデレなんざ気色悪い』

「ん、な!」

緩やかに立ち上がったジンがクラウドを瞳へと映し出す。近くの灰皿へと短くなり始めたそれを一たたきすれば、犬歯が覗くそれが弧を描いた。

『いいか、忘れるな』

『サブウェイマスターが見つかるまで、こき使ってやる』

『お前ら、覚悟しておけよ』


気付かないと思っていたか?阿呆がーー。
瞬間、その言葉を打ち消すかのように雑音がクラウドの胸ポケットから発せられる。
ゲッ!と慌ててそれを取り出せば、小さな無線機から止まる事のない騒ぎ立てる声が鳴る。

「お前らもうちょっと黙っておれんのか!」

《でもクラウドさん、俺達嬉しくってーー》《そうと決まったら早速準備するぞ!おい、来年の新卒者採用のファイルはどこだ!》《作業員達にも伝えなさい。それから予備のロッカーがいくらあるか確認してーー》《今使われてない部屋があるだろ?あそこを荷物置き場に出来ないか?》

「お前ら!ワイの話をーー!」

『クラウド』


名を呼ばれる。
クラウドは慌てて姿勢を正せば、束ねられたいくつものの書類を渡される。
落としそうになるそれを持ち直し、なんや?と捲り上げれば顔色が変わる。


『来年度の新人駅員指導管理者はお前だ。作業員はアントク、清掃員はヨブコの爺に任せる』

「待て待ておい!そんな話しワイはーー」

『おいおい、まさかーー』

古株面してるのは口と態度だけか?
ハッ、ジンが鼻で笑った。その瞬間、顔を真っ赤にしたクラウドは、ファイルで机を叩きつけ上等だゴラァ!と大声で吠える。

「そのすかし面覚えとき!優秀な駅員育てて、マメパトが豆鉄砲食らったような面にしたるわ!!」


覚えとれ!!


ファイル片手に駅長室から出て行くその背中を見送る。
賑やかになった廊下で何を叫んで居るのか、駅長室までその内容が伝わってくる。

フフ。

小さな笑みが零れる。
一気に賑わい出した向こう側に耳を傾け、椅子へと腰掛ける。確か名刺が近くにあった筈だと右手でペン立て周辺を漁れば、ふと自身に向けられた視線に気付く。
元を辿れば、半透明なボール越しジンを見つめる瞳二つ。

ああ、そんな顔するな。
せっかくのイケメンが台無しだぞ。

口元に浮かぶは小さな笑み。
右手でひびの入るボールをつつけば、満足したのか視線の色が変わる。ボールはひとりでに動き、ジンの手の中へとおさまった。
同じタイミング。
探していた名刺が指先に触れ、ジンは近くに置いてある子機へと手を伸ばすのだった。






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