Wアンカー 運休編 | ナノ



爆発ではなく大爆発。

威力が何十倍に増した攻撃はトレイン型のバトルフィールドを大きく揺らした。
システム上自動で走行するトレインだが、流石に大爆発となる大きな衝撃に運転を一時停止せざるおえなかった。
トレーナーの身を第一に考え、強制的に止まったトレイン。救急信号により出撃したドクター達だが、とある人物からの緊急指示によりその足を止められてしまった。

バトルを続行する。
トレインを走らせろ。

その言葉に彼らは抗議の声を上げるも、通信は一方的に切られてしまう。



むせかえる空間の中。
チャレンジャーである少年はおしい!と声を上げた。
少年が見つめる先には1体のポケモン。対戦相手のニョロトノだ。その傍らには目を回し倒れるドクロッグの姿、体力表示されるパネルには色が付いていない。戦闘不能だ。
更にその後ろ。指示を飛ばすトレーナー駅長代理ジンが、此方を唾越しに見つめていた。

対峙するのは少年ただ一人。
パートナーであるデンチュラとダブランは足元で倒れ込んでいる。
押しが足りなかったかな?とブツブツ呟くも、2体のポケモンを見ることなくボールへとしまい込む。
次に繰り出したのはギギアルとランプラー。体力パネルに色が付き、バトル再開のブザーが鳴り響く。

「ギギアルチャージビーム!ランプラーシャドーボール!」

『ニョロトノハイパーボイス!』

目に見えていた。
瀕死目前のニョロトノが機敏に動ける訳が無い。体を持ち上げよろける体に鞭を打ち、腹を膨らませる。だが相手は体力満タン且つ2体。防ぎようがなかった。
ギギアルよりも早く動いたランプラーの技が当たる。
避けきれず真正面から技を受けたニョロトノが吹き飛ぶ。
中途半端に途切れてしまったハイパーボイス。体が跳ねた反動で腹に溜めていたそれが、備え付けの液晶パネルへと発射。
破壊音と共に電源が落ちぐしゃりと歪み、何も映されないパネルは雨が降り続ける車内を映し出した。

ニョロトノ戦闘不能。
体力パネルが0標準されたと同時に無機質なブザー音が鳴り響いた。

「やった!あと2体!」

目を回すニョロトノをボールに戻す。

気合いを入れ直すチャレンジャーの二歩手前の天井。撮影用のカメラを視界に捉えたジンは最後の2体を繰り出す。光の粒子を振り払うように腕を振り回すそれはカブトプス。そしてフィールドに注ぐ雨が気持ち良いのか、嬉しそうに鳴くランターン。



『ランターンランプラーにハイドロポンプ!カブトプスギギアルへたきのぼり!』

「ランプラーランターンにのろい!ギギアルほうでんだ!」

『!』


まさか。

小さく零したジンの声がランターンとカブトプスへと届いた。瞬時に動こうとした2体だがジンの動揺に感づいた為か、その足を止め振り向く。何事かと振り向いた2体のポケモンと目が合う。
しまった。
動揺が伝わってしまったのだ。
すぐさま攻撃指示へと出たジンだが、リアルタイムを止める事が出来ない。
冷たい体を噛み合わせたギギアルが鳴く。
ギギアルのほうでんがフィールド全体へと放出された。

動けずにいたカブトプスにほうでんが直撃。回避する事が出来ない技を食らい、痛みに耐えきれない悲鳴を上げる。
天候は未だに雨。
通電が増した環境下の中で更に追加ダメージ。ぐらりと傾く体を支えるべく鋭い鎌が床を突き刺す。片膝をつき肩で息をし顔を上げる。その隣ではランターンが体を小さく振り鳴き声を一つ零す。
効果今ひとつではあるがダメージが入った事に変わりはない。バトルフィールドへと視線を戻せば、自身の体力を半分削ったランプラーの姿。体がふらついている所を見ると、のろいダメージとギギアルのほうでん食らってしまったと見える。

ジンの隻眼が更に鋭くなる。


『カブトプス!』

指さされた先は雨雲が張り巡らされた天井。
崩れそうになる体を奮い立たせる。勢い良く立ち上がったカブトプスが華麗に舞う。
刹那、いくつものの瓦礫が姿を表す。
目を丸くするランプラーとギギアルそして、チャレンジャー。
ジンの指が振り落とされたと同時に、大粒の岩が雨と共に降り注ぐ。
ストーンエッジだ。
狙うはランプラー。
狙いを定めた岩は真っ直ぐにランプラーへと降り注ぐ。
が、隣に控えていたギギアルが慌ててランプラーを押し出す。2体は崩れる様にトレイン内の床へと転がる。
攻撃が外れた。
よし!とガッツポーズをしたチャレンジャーだが、降り注ぐ岩は止まない。
攻撃範囲が広かったようだ。チャレンジャーの控えるエリアまで岩が跳ねる。車内の所々で岩がぶつかり、壁や椅子、備え付けのパネルを次々と傷つけていく。
パキン!と気持ち良い音が鳴り響く。見上げれば、撮影用のカメラに岩が食い込み、レンズと共にカメラ本体が崩れ落ちる。カラフルのコードに引かれたカメラは役割を果たす事が出来ず、力無くぶら下がっていた。

無線越しに入ってくる連絡。カメラが壊れ、モニターに映像が…と慌ただしい声が入るもジンは無線を切り目の前のバトルを続けた。


『ランターンランプラーにかみなり!』

「っ!ランプラーおきみやげ!」


ギリッと犬歯を噛み締める音。
素早さの足りないランターンだが、ランプラーより一歩先に動く事が出来た。
頭部で揺らす提灯に光が集中。
体を小さく震わせたランプラーは雨雲を見上げる。宙で一回転し一鳴きすれば、提灯に集められていた光が雨雲へと伸びる。光を含んだ雨雲は瞬く間に雷鳴を鳴り響かせる。ゴロリまたゴロリと濁る音はトレイン内に響き渡り、器機を僅かに震わせた。
天候は雨。
回避出来ない。
耐えきる事が出来ないと悟ったランプラーだが、パートナーの一声により現実へと意識が引き戻される。

ランプラー!

早く!!

切羽詰まったチャレンジャーの声の後に、ランターンのかみなりが直撃する。

事は無かった。

かみなりを放った筈のランターンが大きくよろけた。
背後から何かがランターンを襲い、かみなりを打つタイミングがずれてしまった。ダブランのみらいよちが決まった。だけでは終わらない。ランプラーによるのろいが発動。黒い靄がどこからともなく現れランターンを包み込むや否や銀の釘が形を描く。銀の釘は真っ直ぐランターンの体を突き抜け、ダメージを与えては音をたてること無く消滅。

隙が生まれた。

この瞬間を逃がすわけがない。今度はランプラーの技、おきみやげが発動ーーしない。


「えっ?!」


ランプラーの体が吹き飛ぶ。
雨にうたれた小さな体はフィールドの宙を力無く舞う。パタパタとその体にまとわりつく何かが滴る。
水だ。
だが違う。雨の水ではない。これはーー

影が後退する。
鋭い2つの鎌を持つポケモン。カブトプスだ。カブトプスを包むかのような水のベールが崩れていくのが見える。
チャレンジャーはすぐさま理解。
カブトプスの技、アクアジェット。
天気は雨。カブトプスの特性すいすいの効果発揮だけではなかった。アクアジェットと言う先制が取れ更に水の威力が増したカブトプスを止めれるポケモンは居ない。

慌ただしくギギアルへとチャレンジャーが指示をだす。

「ギギアルそのまま突っ込んで!」


目の前に広がる光景に、出されたチャレンジャーの指示にギギアルが戸惑う。
ランプラーが自身へと飛んでくる。すぐさまランプラーのフォローに入り体勢を立て直したいギギアルだが、主人の指示にはそれは含まれて居ない。
むしろ、この状況下での突っ込みはーー。

歯車が大きく軋む。
悲痛な叫び声を上げたギギアルはバトルフィールドへと突っ込む。
制帽を深く被るジンに、チャレンジャーは気付かなかった。

ギギアルが突っ込んだ先に居たのはランプラーだった。体勢を整える事の出来ないランプラーにギギアルがぶつかるも勢いを止める事はない。ランプラーを押しのけての突進は、ランターンとカブトプスへの不意打ち攻撃。弾き飛ばされたランプラーの真後ろから現れたギギアルに2体は対処出来ない。
しかしそれは指示がない場合だ。

チャレンジャーの声はポケモンだけでは無くジンにも届いている。"回避しろ"と指示が出来る隙はあった。
勿論その指示を聞き動く時間があるのもまた事実。
だが、ジンは何も言わない。

ランターンとカブトプスは察した。
先ほどジンが零した台詞に、そして対戦相手のバトルスタイル。
呟く様に聞こえた小さな言葉。それが制帽を被るトレーナーのものであると理解した時、仕方ないと2体は目を閉じた。


「ギギアル、ほうでん!」


ギギアルのほうでんがフィールドを包み込んだと同時に、切っていた通信を入れた。


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