Wアンカー 運休編 | ナノ





よく言えば割れ物扱い、悪く言えば腫れ物扱いだった。
なにがと聞かれれば、駅員である彼、ジャッキーに対しての周囲の反応だろう。古株の一人として位置するジャッキーだが、駅員クラウドのように歳を食っている訳ではない。二十代にすら片足突っ込んで居ない彼は、見る人によって子供だと言う。身にまとう雰囲気や口調は大人そのものだが、成長途中である体つきに顔の作りはまだまだ幼い。
エリートトレーナーの分類ではない。強いて言うなら、塾帰りトレーナーと区別されるだろう。だが、彼は駅員の制服を着ていた。まだ幼い少年が何故だと思われるがちだが、年齢にそぐわない知識を彼は持ち合わせていた。
しかし、本来スクールに通う筈のジャッキーが、何故駅員として働いているのか?と言われれば、彼の精神的ショックが原因だと言わざるおえない。自身の意識を持ち始め、好奇心旺盛な時期にその事件は置いた。否、事故と言うべきだろう。
当時幼かった彼は人見知りが激しく、引っ込み思案で口数が少なかった。そのためか、友達と言える存在と走り回る事せず一人で本を読み漁る日々を続けていたと言う。

流石に将来を心配した両親は、彼にお使いを頼んだ。すぐ近くではなく、わざわざ遠く指定した2つ隣街までのお使い。電車を乗り継ぎ、知らない人とコミュニケーションをとれるようにと考えたからだ。

無事、お使いは終了。大好きな電車から降りライブキャスターから、ステーションの地上前で両親が迎えにきていると言う連絡に足を早めた。
沢山の荷物を持ち上げ、長く続いた階段からやっと抜け出す。
大好きな両親が待っている。胸を踊らせ、地上へと出る階段の一段目を登った先にそれはあった。
両親だ。ジャッキーの両親。
座っている訳でもない、立っている訳でもない。

横たわっていた。が正しいだろう。

あらぬ方角へと折り曲げられた四肢。泥で汚れた顔に洋服。まばたき一つもない見開いた瞳。ぐしゃぐしゃに崩れたヘアースタイル。

横たわる2人。だけではない。あちらこちらに人が横たわっていた。

幼かった彼はその場に立ち尽くす。阿鼻叫喚な世界には目もくれず、目の前でピクリと動かない両親を眺めていた。

バッフロンを輸送していたトラックが玉突き事故に巻き込まれたのが原因だった。後続を走るトラックが頑丈な扉へと追突。パニック状態になったバッフロンが歪んだ扉を破壊し、次々と脱走。群と成したその塊はライモンシティをひたすら暴れまわったときく。

近くに居合わせた住民が巻き込まれ、死傷者の数は50人以上。翌日、イッシュ新聞で一面を飾る位大きな事故だったのだ。その死傷者の中にジャッキーの両親が含まれていた。
負傷者ではなく、死亡者としてのカウント。

「元々、外に興味の無い子供だと聞きました」「両親は将来の彼を心配し、外に出るようイベントを起こした」「だが、本来其処にいる筈の両親は、事故に巻き込まれ故人に」「外に出た事により……」

震える少年を抱える一人の男性。精神的なショックだと彼に告げたのは老いた医師。

事件から一週間経っても、ステーションから断固として離れない少年に当時の駅長が警察へと通報。
警察で一時保護しようと、外へ連れて行こうとしたものの幼い少年は酷く暴れ出した。事情を聞いた医師が、カウンセリング及び診察をした結果それだと告げる。

外に出れない。出ようとした所で、酷く震え、怯え、気絶し痙攣を起こした時だってある。
事情を知った駅長は、彼をギアステーションに置くことにしたと言う。其処にどんな感情を抱いたかは知らない。少年を思ってか、或いは哀れんだか…。

足りない知識は当時の駅長や駅員達から教わり、彼が他の従業員に見下されないようにとシステムの構造まで教え込んだのが駅長の相棒的存在のサブウェイマスター。

ギアステーションのトップ2人が居なくなった後でも、未だにジャッキーは其処に住み幼い駅員として働いている。トップが変わる度に地上に出ないか、地上で暮らしてみては?と声をかけられるも、ジャッキーは断り続けた。年齢の関係上働くにはまだ早いと他の従業員からも声が上がるも、彼しか知らない内部知識を持っている。手放す訳に行かないとトップの台詞に、従業員達は仕方無く頷くしかなかった。

そんな境遇の中に立つジャッキーは、ジンと異なる意味で一線を引かれている。
自分から。と言うのもあるのだろう。
彼は古株メンバー以外の人と話そうともしなければ、関わろうともしない。
話したとしても業務的内容であり、雑談らしいものは何一つない。
深く関わらない方がいい。

大半の従業員はそう抱く者が多い。

それを知っているのか、ジャッキーは人の多い中へとは飛び込まない。休憩時間をズラし、可能な限り人目を避けて行動する。

そして今日も、昨日と変わらず人気のない資料室へとやってきた。


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