《それでは次のニュースです。
昨日ライモンシティを襲った豪雨により、地下トレインにて運行の遅れてが生じました。
原因は跳ね橋近くの川が氾濫し、流れた大木などがトレインへと通じるトンネルを傷つけた模様。
警察が調査した所古びたトンネルの外壁にひびが入り、其処から水が流れ込みトレインの運行遅れが生じたと発表。
現在も一部トレインでは運行を見合わせている為、規制されて居りますが目的地行きの送迎バスやタクシーを手配しておりこちらからも利用できるとの事です。
トレイン協会は今後こう言った事が起きない為にと、トンネル内部の整備を改め補強工事を行うと共に今回の件にて利用者の皆様に多大なるご迷惑をおかけしてしまい申し訳有りません。と会見にて謝罪しました。
今年の豪雨は年々に比べ被害は大きく、降水量も多いことから、史上初の大雨量を記録した豪雨として………》


「……………」


おもちゃで溢れた小さな箱庭。
可愛らしいデザインで作られたそれは、リアルタイムで起きた出来事をつらつらと告げる。
抱きかかえたシビルドン形のビーズクッションがクシャリと鳴れば、少年はパチリとまばたきをしてみせた。
そして静かに向かった視線の先には、遊びかけの数個のトレインと先が切れた線路が広がる。

電車がいっぱい乗っている本が欲しいと、あの人におねだりした所次の日には山のような量の本を用意してくれた。
イッシュ地方だけでは無くジョウト地方のリニアモーターの本まで。本にかかれていない詳しい所まで知りたい。
胸をくすぶる好奇心は少年を動かし、最新のバージョンだと買ってくれたPCへと手を付けた。

機械類は得意である。

カタカタと問題なくキーボードを操作した少年は、トレイン協会の創設者から調べ次にトレイン制作関係者まで調べ上げる。
知らない人物の名前が表示される度に、この人達が自身が大好きなトレインに関わった関係者なのだと思うと胸が躍る。

と、其処で見たことのある人物の名前に気がつく。

リニアステーション副管理者、ジン。

ジンと言えば少し前にギアステーションの駅長代理に就任した人物の名前と同じである。
気になった彼は無線型のマウスを操作。画面をスクロールするも、詳しい職歴は記入されては居らず写真すら表示されない。

同一人物なのだろうか？
詳しく調べる為に、検索をかけようとした時だった……



《…の……で、パニック状態になった人ごみの中から、乗客員の少年一人が線路内に転落。線路内に流れ込んできた水鉄砲に飲み込まれた模様。しかし、駆けつけた職員により無事保護され命には別状は無いとの事です。保護された少年は近くの病院へと搬送され検査したところ、命に別状は無いとのこと。しかし、少年を庇い職員が右腕に怪我を…………》


表示された映像。
遠巻きに取られた映像なのか人ごみの中から、頭からすっぽりと毛布を被った影と職員を数人引き連れたひとりの人物が歩く様子。

近付こうと人ごみに飛び込んだカメラが映し出したもの。
其処でレンズへと映り込んだ人物に少年は目を見開いた。



「あのトレーナーっ！」


すぐさま立ち上がった少年。膝に置いていたシビルドンクッションはピシャリと音を立てては落ち、無様な格好をさらけ出す。しかし今はクッションなんかに目をやっている場合ては無い。


サブウェイマスターが着る袖と裾が長い白とグレーのしましまコート。何故かそれを羽織っては荒々しい歩調で職員用の部屋へと入っていった。
水に濡れた滴る髪の毛。右頬から目印にかけて染み付いた黒い模様。そして、右肩のコートを押さえるように当てられた左腕。
其処から切り替わったのはギアステーションの外部の様子だった。

切り替わった映像からスタジオへ移動。
キャスター達が先ほどの映像から様々な解説を始め、今回の件の為だけに呼んだ専門家が勝手に話し出す。

キャスターや専門家の話なんてどうでもよい。
先ほどテレビに映り込んだ人物。

間違いない。
深夜の公園で出会ったあのトレーナーだ。
暗闇に包まれた公園、初めて出会ったあの時の光景が蘇る。不思議な人だと、抱いていた第一印象はトレーナーを止めちまえと言うセリフによりガラリと変わった。
何故、ポケモン大好きの自分がトレーナーをやめなくてはならないのか？
未だにその答えは見つかったは居ない。

急いでキーボードへと向き直り慌ただしく叩いた。
キーワードは、ギアステーション、駅長、トレーナー。

左右に揺れる赤と白のボールが検索中の文字を表示する。
早く早くと急かすようにPCへとしがみつけば、数え切れない検索結果が表示された。
自身が一番に探しているそれ。

何百と言うタイトルを流すようにスクロールしていくうちに、ある掲示板にてたてられたスレが少年を引き寄せた。



「駅長代理ジンの職歴スレ？」



















了

120802