Wアンカー 運休編 | ナノ







「デンチュラ!エレキネット!」

ボールから飛び出してきたデンチュラの技は早かった。既にボール内で少年が指示する技を理解していたのだろう。
モーションを見せる事なく吐き出されたエレキネットは、一直線に彼等を襲う。
突然の奇襲に対応出来なかった彼等は、エレキネットの範囲内に収まる。
大きく吐き出される技は、数人飲み込み後ろの壁へと叩きつけた。
だけでは終わらない。

「でんじは!」

電撃が走る。帯電していた体走る光は室内を覆う。遠くで人の叫び声が上がった。

デンチュラの背後で影が動く。横たわるそれに少年は静かに触れた。

右翼の羽が酷く抜け落ちているらしく、黄色の中から地肌が見え隠れする。
静かに持ち上げ、そのポケモンの胸へと指を当てた。
感じるのは、弱々しい鼓動。
まだ、生きている。

「君!アーケンにこれを!」

駆け寄ってきた研究者の手には、テレビのCMで見たことある傷薬。
少年はそれを受け取り、抱き寄せたポケモンの体全体に吹きかけた。


「アーケン?」

「そう。化石から復元されたポケモンだ」
しかし、この子は先ほど復元されたばかりか、体が弱い。
研究者の言葉に、少年の顔色が真っ青になる。

体が弱い。

抱き寄せていたアーケンを静かに置き、自身が着ていたパーカーを脱ぎそれに被せ抱きかかえた。


「君!急いでここからでるよ!」

早くこの部屋から出なければ。
彼等が来たと言う事は、あの塞がっていた通路が使える。叉は引き返して別の通路を使えると言う事だ。
アーケンを抱えるのは子供。そんな子供と一緒に走っては、彼等に追いつかれてしまう。こうなったら自身が少年を抱え、走るしかーー

「……」

「………あ」

パーカーに包まれたアーケンが動いた。フードをかぶった小さな頭を覗き込む。わずかに開いた瞳は瞑らな色。まだ体が痛むのか、うっすらと涙を浮かべている。

「大丈夫。ちゃんと僕が守ってあげるから」

小さな体が震えたような気がした。包み込む様に、少年は腕に力を込めずれたフードを被せた。
刹那、相棒のデンチュラが鳴いた。


「ゴルバット、スピードスター!」

電撃の中から、切り裂くかの如く星が煌めく。突然の事に少年とデンチュラの対応が遅れた。

デンチュラ!

名を呼ぶものの一歩遅し、輝きを帯びた星がデンチュラにダメージを与える。不意をつかれた技に黄色い体が舞い、床へと叩きつけた。


「デンチュラ!クモのす!」

「遅い!エアカッター!」

体勢を立て直そとしたデンチュラだが、追い討ちかけるように技が叩き込まれる。先手を取られた。実力差もあったのだろう。デンチュラはたった一撃受けただけで、目を回し倒れた。
ズドン!

倒れたデンチュラに、少年は息をのむ。一撃で倒れた相棒。そんな、まさか!効果抜群でも無いのに、何故?!そんな単語が脳裏を掠めたと同時に、少年はデンチュラのモンスターボールを翳しボール内へと戻した。

電撃が止んだ室内。所々焦げた天井と床の間で、一人の男が唾を吐いた。

「ガキが…!」

傍らにはゴルバット。他の人間は、デンチュラのワザを食らった為か痺れて動けないでいる。しかし、彼等もトレーナー。麻痺を治す薬や時間がたてばそれはきえてなくなるだろう。

「調子に乗りやがって…!大人を舐めるな!」

ゴルバット!つばさでうつ!

トレーナーからの指示。曲がる事無く真っ直ぐに受け止めたゴルバットは、羽をばたつかせ少年へと牙を向けた。
ポケモンではない。生身である人間へ。
研究者がマズいと叫んだ。
同時にアーケンを抱える少年ごと、その両手で庇い背を向ける。包み込まれ、壁ができたもののそれは止まらない。

一直線に研究者へ、少年めがけ、大きな翼が迷う事無く飛んできてーー


「ーッサム!」

ポケモンの鳴き声。共に鳴り響いたのは轟音。そして突風。
なぜ室内にと、目の前で起きている現実から背けようとする思考。とっさに顔を伏せるもパラパラと降りかかるそれは濃厚な砂塵。少年と研究者が咳き込んだ。

『つばめがえし!』

轟音、砂塵の中から閃が駆け抜けた。
突然現れた第三者の存在に相手は対応が出来ず、ゴルバットが吹き飛ぶ様に目を丸くする。

舞う砂埃の中から人影が現れる。先ほどまで居なかった筈の人物。壊された瓦礫。否。壊された瓦礫の中からそのトレーナーは現れた。
足元に転がるそれを蹴り飛ばし、くわえているタバコに火を付けた人物、ジンの姿がそこにあった。


「ジンさん!」

砂埃を吸い込んでしまったのか、研究者が咳き込みながらトレーナーの名を呼ぶ。

「ジンさん!彼等がーー」

「マタドガス!ヘドロこうげき!」

ボールの開閉音、同時に飛ばされた指示とポケモンの姿。どす黒いヘドロは研究者と少年へと目掛け襲いかかるも、素早く動いたハッサムが攻撃をはじく。


「貴様っ…!」

『ポケモンや資料を奪う前に、部下のポケモンを鍛えてやるんだったな』


コイツ一匹で事足りるとか、どんだけ弱いんだよ?

煙草に火をつけ、煙をはくジンの姿に彼は歯軋りする。


「なぜ貴様が此処にいるっ……」

『その質問そっくりてめーに返してやるよ…揃いも揃って、大人しくしていればいいものを』


瓦礫を退かしたジンがボールを構える。
更にもう一体繰り出すらしい。

密閉された空間、デンチュラの技により未だに動けない仲間、目の前にはあのトレーナー。
仲間を庇いながらのバトルは此方が不利。そして止む気配の無い施設の警報機。その内警察がなだれ込むようにやってくるのは明白。
ならばどうするか?
簡単な事だ。
当たり前の事だ。
我が組織の方針を考えれば、考える事すらばかばかしい。
先ほど入手したディスクは胸元に入れている。問題ない。

後は、実行するだけだ。

彼の背後からパチリと音が鳴る。デンチュラの技エレキネットが未だに効果を切らすことなく帯電する。それに捕縛されている仲間は気を失い、動く気配が無い。
丁度いい。

彼はニヤリと笑みを浮かべ自身のポケモンへと新たな指示を出した。


「マタドガス!」


どくガス!


出された指示。
どくガス?
毒タイプのポケモンが始めに覚えている初歩的な技。この場合煙幕ではないのかと思考を巡らせていたジンだが、パチリと鳴った電撃にハッと息を呑んだ。

すぐさま2人の元へと駆け寄ったジンは首根っこを掴み、扉が開かれたある部屋へ。先ほどまで研究者と少年が隠れていた部屋だ。投げつけるかの様に2人を放り出したジン。後を追いかけてきたハッサムへと指示を出した。



『ハッサム!まもる!』


まもるの技が展開されたと同時に、マタドガスが吐いたどくガスが室内を満たした。
現状に脳がついていけない2人が、ぶつけた箇所をさするもそんな場合ではない。
ジンが2人の頭を下げる。
そして叫んだ。伏せろ!とーー。




刹那、爆発が起きた。


<<>>戻る
一覧-top
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -