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《『ようこそ最終車両へ。
このギアステーションを任されて居る駅長代理のジンだ。ご存知の通りサブウェイマスターが不在な為、私駅長代理が終着駅の主として勤めさせ貰っている。
時間が惜しいので、さっさと進めよう。
あなたとそのパートナーの闘志が私達を超えるか……。
私と言う壁を越え次のホームへと、その闘志を繋ぐべきトレーナーか試させて頂こう。
フィールド確認、バトルOK。
スリルなバトルを求め出発進行!』》


映し出された液晶画面には一人の挑戦者とグレーのジャケットを着、黒白のマントを巻く駅長代理の姿がスクリーンに映し出されて居た。

場所は一般車両が走るトレインエリアと正反対に設けられた、バトルトレインエリア。
其処はバトル廃人達が集う場所として有名で、バトル好きなトレーナー達で賑わって居た。
今より更に上を目指すトレーナー達が集う場所。言わば廃人施設と呼ばれるそのトレインは年中無休で、今日も沢山のトレーナーが集っていた。

スクリーンに映る映像ノーマルシングル戦で21戦目となるトレーナーと、駅長代理のジンのバトルの様子。
勿論本人の意志を尊重し、バトルの様子を流すか否か決められる。今回はどうやら本人の承諾を得ての映像を配信している様子。

この機会にと、ボスであるジンの手持ちを研究する為に、スクリーンの前に集まるトレーナー達が多い。
ギアステーションのバトルトレインに通うトレーナーならば、誰で知っている情報。
ノーマルトレインシングル戦のジンのパーティー。
ノーマルだけでは無くスーパーや、ダブルでは様々なパーティーを使い分けるジン。打倒駅長代理を目指す廃人トレーナー達は、日々ジンのポケモン達を研究する。
そして今回のノーマルトレインシングル戦。ジンの手持ちパーティーは、砂パーティー。
俗に言う天候パと呼ばれるポケモンを使う。
ノーマルシングル戦は砂パーティー。
ノーマルダブル戦は雨パーティー。
しかし、スーパーのシングル、ダブルスのパーティーは不明。
ならばとその天候パ向けの対策をとったとしても、日々ポケモンの特性が変わりペースを崩されてしまう。


《「いけ!ベロベルト!」》

《『カバルドン全力前進!』》


フィールド内へと現れたのはジンのカバルドンと挑戦者のベロベルトだ。
ボールから出た瞬間ジンのカバルドンが大きなうなり声を上げた。そして、特性のすなおこしで瞬時にフィールド内が砂嵐で埋もれる。
バチバチとトレインの窓に叩きつける砂嵐が、その凄さを物語る。
ターン事に相手へとダメージを与える砂嵐だが、挑戦者が出したベロベルトにはそれに怯む様子は無い。ノーマルタイプの筈なのに何故悠然とフィールドに立っていられるのか?
いや、ダメージすら受けていない。

其処で気付いた。挑戦者の持つベロベルトの特性が「ノー天気」だと言う事を。
混乱にならない「マイペース」やメロメロにならない「鈍感」では無い特性「ノー天気」

岩、地面、鋼の3タイプならばすなおこしの影響を受ける事無いが、特殊なエリアに生息するポケモンが持つ夢特性なるものでこれらを受けないポケモンがいる。
ジンの目の前に立つベロベルトも、その夢特性なのか砂嵐にビクともしない。マジックガード、ぼうじんと言った特性を持つポケモンと対峙した事は有るが、まさに夢特性のポケモンが来るとは思わなかった。
そして何よりベロベルトは技が多彩。遺伝によってはアームハンマー、マグニチュード、だくりゅうまで覚えれる。HPも高くそう簡単には落とせないだろう。

そうなれば……。バトル姿勢を変えなければならない……。

鍔越しにベロベルトを睨む。バタバタと暴れるマントを振り払い、静かに構えた瞬間バトル開始のブザーがトレイン内に鳴り響いた。


「ベロベルト!れいとうビーム!」

砂嵐で荒れ狂う狭いトレインの内部。
指示を受けたベロベルトが天候に怯む事なくカバルドンへと冷気の塊を発した。先制はベロベルト。素早さを鍛えたのだろう。ジンのカバルドンより素早く動いた相手に、カバルドンは目を丸くするのが見えた。
発せられた冷気は対象物を捕らえる。
しかし、真っ直ぐと伸びた冷気の線は荒れる砂嵐により、その威力をどんどん削っていく。
勢いが良かった冷気が先から徐々に削れて行くのが分かる。威力と共に速度まで落ちてゆく。
その隙に動いたカバルドンは大きく開けていた口を閉じるやいなや、ジンが真っ直ぐとベロベルトへと指を指す。


『カバルドン!ほえる!』


口を閉じ溜めていた声量が一気に放出される。鼓膜を揺るがすほどのカバルドンのほえるは相手トレーナーまでも怯ませた。
勿論ベロベルトも。
放っていた冷気は途中でピタリと止まる。そして大きな巨体をもつベロベルトは自身の顔を覆っては勝手にボールへと戻ってゆく。

「げ!」

相手トレーナーが不味いと零したと同時に、腰元のボールからフィールド内へと一匹のポケモンが現れた。
ガウ!と一鳴きして現れたのはレントラー。青い鬣を靡かせて現れたものの、砂嵐のダメージを受けその足元がふらつく。

その様子をスクリーンで眺めていたトレーナー達が声を上げる。

「おいおい、以前のカバルドンはほえるなんて覚えて無かった筈じゃ」
「一気にカバルドンを落としてくるトレーナー対策か?それだったら一撃技で落ちた場合どうするんだろう?」
「襷を持ってないのかな?だったら今回は食べ残しかオボン系……」
「あのレントラー電磁浮遊覚えてんのかな?じゃなかったらキツくない?」

大きなスクリーンの中ではフィールドへと引きずり出されたレントラーが、カバルドンへと氷のキバを決めるシーンが映される。
効果抜群の筈なのに、グッと耐えたカバルドンが技を決め終えたレントラーの真正面からあくびを食らわせた。
次のターンまでは効果が出ないであろうあくびだが、零距離で浴びたせいかその体を大きき傾けフィールドへと倒れてしまう。
砂パーティーを組む事で有名なシングルトレイン。なのにも関わらず電気タイプのポケモンをつれてきたと言う事は、途中のトレーナー対策と言う事だろう。
いくらレントラーが氷のキバを覚えているとは言え、行動を防がれてしまっては元も子もない。
電磁浮遊。それも覚えて居ない様子。
すなおこしで起きた砂嵐がレントラーの体力を徐々に削ってゆく。傾き始めたバトルだが、此処で誰もが諦めスクリーンから離れる事は無かった。

いつ何が起きるかわからないのがポケモンバトル。
何%かの確率で起きる急所や攻撃の外れ、フィールドに設置された壊れた物の残骸によっては空気が一変する事だってある。

眠ってしまったレントラーへと声をかけるトレーナーと、好機だと襲いかかってくるカバルドン。
指示を出したジンの言葉を聞いたカバルドンが技を繰り出そうとした瞬間、レントラーの尾が真っ直ぐと伸びた。


「起きた!!」

スクリーンを眺めていたトレーナーが零した瞬間、レントラーはカバルドンの地震攻撃をモロに食らってしまう。

激しく揺れるトレイン内に設置されたビデオまで揺れ、スクリーンに酷いノイズとその凄まじさを伝える。
不安定となった足元にトレーナーが近くの物へとしがみつくものの、何食わぬ顔で立つ駅長代理の姿を捉えたスクリーンを見上げるトレーナーが「異常だ」と零す。

効果抜群の地面技を食らったレントラーと、うなり声を上げたカバルドン。
揺れはおさまりレントラー戦闘不能のブザーが鳴るのかと待機していた時だった。


「レントラー!氷のキバ!」

『!』


戦闘不能になるだろうと予測していたレントラーは、傾くその体を踏ん張っては支えた。
そして吹き荒れる砂嵐の中を閃光のごとく駆け抜ける。青い一閃がカバルドンへと突進する。
すかさずジンが指示を出すも素早いレントラーに先を越され、カバルドンの体へと氷のキバが突き刺さった。


『!』


とっさにジンが見上げた先にはトレイン内の上部に設置されているパネル。其処にはHP0と表記された数字と真っ赤に塗り変わるパネル。
同時にズドン!と床を大きく揺らし倒れたカバルドンが其処に居た。
カバルドンの戦闘不能を告げるブザーだが、それがもう一つ重なり二重のブザー音がその場を埋め尽くした。

先程、氷のキバを決めたレントラーがカバルドンと同様に倒れている。
収まる気配の無い砂嵐。
スクリーンを見上げるトレーナー達が再び言葉を交わす。

「レントラー、襷持ちだったのか!」
「しかしあくびのねむるですぐに目を覚ますなんてな………」
「あのレントラーの特性って闘争心か?」
「でも、今倒れたのってさ………」
「襷でギリギリ持ちこたえたものの、砂嵐のダメージで戦闘不能だったな」


つまりは共倒れ。
コレだから天候パーティーは怖い。
誰かが呟いた。

互いの残り手持ちは2体。

どう転ぶか分からない。

荒れる砂嵐から顔を守るかのように腕を翳すトレーナーが、次のモンスターボールをフィールドへと投げつけた。
登場したのは先程のベロベルト。先程ほえるを食らってボールへと引っ込んだのが悔しかったのか、地団駄を踏みながら気合いを入れている。

そして後を追うように、ジンもボールを投げた。

全身青いフォルムを輝かせ、グォォォ!と鳴き声を上げたのはメタグロス。
四本の足で立ち構え、ベロベルトを睨んだ。


スクリーンを見上げるトレーナー達が賑わう。

コレだからポケモンバトルは止めらんない。
バトルを開始した両者にエールを送るトレーナー、ジンのポケモンを研究するトレーナー、ポケモンの特性や技構成を交わすトレーナー。
様々なトレーナー達が挑戦者と駅長代理のバトルを観戦していた。

そのトレーナーの中に紛れ込む様に目深く帽子を被る一人のトレーナーもまた、スクリーンから目を離さず噛みつく様に眺めていた。



















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