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「子供が見つかたって!」


無線機から聞こえたその言葉をそのままそっくり告げた従業員。
途端にコントロールルームにて居合わせていた従業員達の歓声が湧いた。

中には互いに手を合わせるものや抱き合う者までも居る。
縮小されていた地図はパネル操作により拡大画面へ。
まるで巣の様に張り巡らす路線の地図には、赤いアイコンが点滅しながら存在を主張していた。
ジンが持っていたライブキャスター。その中に搭載されていたGPS機能のデータを、別で持ち歩いていた端末へと送信。その端末からコントロールルームへと送りつける。
データを受信したコンピューターは従業員の手により、すぐさまジンのもつライブキャスターのGPSの位置を登録するのだった。

先ほどまで動き回っていたアイコンがピタリと止まった。
それはきっと線路内へと落ちてしまった少年と無事合流できた事を意味している。


「はい、えぇ…。分かりました」


マイクをつけた従業員が、ノイズ混じりの無線でジンと言葉を交わす。
コクコクと頷きながら手元に浮かび上がる透明なキーボード。音もなく操作しながら線路の地図をぐるりと回し3D表示へと切り替えていく。


「はい、そうですね。そのまま来た線路を戻って頂き、直接六番線ホームへと行くよりも、五番線ホーム行きの線路を進んだ方が近いです」

アイコンが表示されている線路から伸びる青い線。
ぐんぐん伸びて行く線は線路を右へ左へと自由に描く。そして目的地の六番線ホームへと到着すれば、青い線は一気に赤へと染まった。


「はい。了解しました。それでは六番線ホームにて救急隊を配備して置きます」


淡々と話を進めていく従業員の会話。
居合わせた職員達の頬の緩みは止まらないようだ。


「しかし、これで問題視していたものが、何とか治まりそうですね」

「せやな」



周りでは少し落ち着きを取り戻した職員達が動き回る。
無線機越しに会話したり、表示されたステーション内の地図を見ながら指示を出す姿が見受けられる。

チラリと瞳に写り込んだのは青白く浮かぶ無数のパネル達。
其処にはステーション内にて設置しているカメラが映す景色が広がる。
混み合う人混みは相変わらずだが、臨時で駆けつけてくれたポケモンセンターのジョーイさんとタブンネの団体。
今回の豪雨により被害が出ていないかと、やってきてくれたのだ。
暖かいミルクをトレーナーとポケモンへと配るタブンネの姿は本当に癒やしである。

他のパネルでは、ジンが呼んだ業者達がせっせと作業を行っている。

ドッコラー達が鉄の素材をせっせと運んでは、ドテッコツが素材の仕分けとトレーナーに指示された形へと変形させる。近くでは穴が空いたであろう箇所に素材を当て、落ちないように糸を吐くバチュルの姿。そして鉄同士をくっつける為の炎ポケモンが控えている。作業員の手持ちだろうギガイアスやナットレイの姿がチラチラ写り込む。
その遠くでは線路に溜まった水を他の業者が、ポンプを使いその嵩を徐々に減らしていく。

此方も順調に作業が進んでいる。
各線路で見つかった問題点はゆっくりとしたものの、一つ一つ穴を塞ぎ終わらせてゆく。

地上の豪雨もいつしか穏やかな雪へと変わり、あの凄まじい天候が嘘の様に感じられる。

毎年やってくるはた迷惑な天候だが、この荒れた天候が来る度に厳しい冬の訪れがすぐ其処まで来ているのだと理解出来た。

先ほど手配していたバスとタクシーの導入数を増やした事で、トレインに乗れず詰まっていたお客様を目的地へと運ぶことが出来た。
未だにトレインに乗る乗客数は減らないものの、ステーションの職員及びセンターから駆け付けたジョーイさん達により激しい混乱は避けれたようだ。

ホームへと流れ込んできた水にパニックになった乗客達も落ち着いている様子。


「後は、駅長代理が戻ってくるだけで……「駅長代理?!どうしました?!」っ?!」





突如コントロールルームへと響いたのは、ジンと連絡を取っていた従業員の声だった。



* * *


線路内の半分以上浸かった水は、大の大人が移動するにも苦しいものがあった。

泳ぎが得意では無い者からすれば最悪の空間でしかないトンネル。其処に淡い光を放ちながら水面から顔を覗かせるポケモン、そしてポケモンに掴まる子供が居た。

周りは相変わらず暗いままで、少年の心に恐怖をしみこませてゆく。
掴まるポケモンが放つ光が、暗闇から少年を守るようにも見て取れる。
それでも目の前にはいつでも襲いかかろうとする暗闇がいて、少年は掴まっているポケモンへと更にしがみつく。


「…………ラン」


それに気づいたポケモンランターンは、どうしたの?と言わんばかりにひと鳴きする。

ううん。なんでもないよ。

ランターンを撫でてやれば、くすぐったい声を上げバシャバシャと尾鰭を揺らす。
揺れた水面は波を描き、ゆるやかに広がってゆく。

其処にはランターンと少年しか居らず、他には誰も居ない。先ほどまで一緒に行動していた筈のジンはどこに行ったのだと、ぐるりと回りを見渡すだろう。いったいどこに居るのか?
水の浸かった線路内を探せど、やはり居ない。

と、いきなりランターンが鳴いた。
何?
とランターンを撫でた少年の目の前で、コポリと泡が生まれ直ぐに弾ける。
次第に泡の数は増えゴボボボ。と鳴り続けるそれに少年の体が硬直する。も、ラン!ラルル!とはしゃぎだしたランターンに、ああ!戻って来たのか。と安堵した。


バシャン。
もっと激しい水しぶきを上げて出てくるかと思っていたが、案外そうでもなかったらしい。
キングドラが顔半分だけ覗かせ、凛とした鳴き声をあげる。
あれ?トレーナーの姿が見当たらな………


『コントロール!どう言う事だ?!』


ザバァ!とキングドラよりも激しい水しぶきを上げて現れたジン。
ボトボトと雫を垂らした髪の毛はジンの肌へとまとわり付くも、払う事をせず持っていた小さな何かへと吠えた。


『誰だ線路内のシャッター閉めた奴は?!』

向こうに移動すると連絡しただろうが!

ジンの怒鳴り声が水で満たされた線路内へと響き渡った。
グワングワンとコンクリートで跳ね返された音は、ランターン、キングドラそして少年の聴覚を震えさせる。


《そ…ザッなことは…ザッ……い筈でザザッ!》

『しかし現に閉まって通れない状態だ!ったく、誰だ勝手にシャッターを操作した奴は…!』


話を聞いてないのか!と毒づくジン。端末からはノイズ混じりの何かが聞こえるも、内容まではっきりと聞き取れるものでは無かった。
水の中に浸かって起きながらも、まだ機能していると言う事は防水性があるのだろう。
ノイズが混じる原因は電波にあるのだろう。徐々にノイズ音が強まり向こう側の声が聞き取れなくなっていき、ジンはイラついた表情を見せた。


『コレでは六番ホームへは行けない。五番線内のシャッターが閉まっているのなら、途中の四番線も無理だろうからな…悪いが七番線ホームへと移動する』

至急其方に救助隊を移動させろ。


ノイズ混じりに再び騒ぐ声を無視し、端末を操作する。
ミニチュアながらも小さな地図が浮かび上がり、続け様に線路内の3D画像を制作。青白く光る地図は無数に広がる細い線を張り巡らせており少年は目を見開いた。

『予定変更だ。七番線ホームへ向かう』

「う…うん!」



ランターン、キングドラへ続け。
彼を離さずついて来い。

画像を表示したままキングドラと共に水の中へと潜り込んだジン。
行くよ!と意気込んだ様に鳴いたランターンに、少年は息を思いっきり吸い込んではしがみつく。バシャン!

水音を立てて線路の底へと潜り込んだ。



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