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パシャパシャ鳴る足元の水嵩は変わらないまま。
地上ならば下水道へと流れ込み、道路に水が溜まらない様に作られているがやはり地下にはそういったものは無い。
ゆらゆらと不規則な水面は揺らめくだけで、減りも増えもしない。
増えて居ない。っと言う事は、雨漏り(?)がしていない事になる。つまり、地上の激しい雷雨が止んだかはたまたステーションの従業員が止めたなどが考えられる。

流石に水で浸かった線路上をトレインが走る事は無いだろう。
いつ走行中のトレインに当たる可能性は避けられるものの、無事に此処から出られると言う保証はどこにもない。
線路はどこまでも続き同じ場所をぐるぐる周り繋ぐ、悪く言えば一生出られない事だって……其処まで考えては首を振る。

ダメ!ダメ!
変な方向へと考えちゃいけない。

風が少年の頬をかすったのだ。
出口がどこかにある筈。と、同時に非常用の無線機が線路のどこかに置いている可能性だってある。
ずっとずっと前から大好きなトレインは、小さな模型だけでは飽きたらず自宅にあるパソコンで色々検索し写真を見てきた。
此処から遠い地方の線路内の写真では、非常用通路や無線機などの画像が貼られているのを記憶している。
「今の駅長代理さんは安全面を酷く強化しているって聞いたわ」「そういったもしもの場合の設備はあるかもね」と友人のゲンゴロウが言っていたのを思い出す。

もしかしたら無いかも知れない。
しかし逆に有るかも知れない。

出来れば後者であって欲しいと願う少年が、再び水音を鳴らした時であった。

終わりの見えない黒の中に何かが見えた。

己の存在を主張するかの様に灯るそれはまさに光。
黒に怯え寂しく光る存在に少年はもしかして!と足を早めた。

非常通路或いは人が居るのか……出来れば後者であって欲しい少年の走る速度は速く。
激しく跳ねた音が遠くまで鳴り響き、じわじわと浸透して行くのが分かる。

ここから出られるかも知れない。
そんな思いが少年の体を動かし、光るそれへと駆け寄った。


が、それの正体が瞳へと映り込んだ瞬間に、どちらでも無い予想していない選択肢の一つに驚き目を見開いた。


「これは………」


暗闇に浮かぶそれは間違い無く火の子。水に浸かれば跡形もなく消え去ってしまう儚き存在である。しかし、水が支配していると言ってもおかしくないこの線路内で、消されること無く懸命に火を維持する事が出来ている。
なぜか?


「何で線路内にヒトモシが…!」


一匹のヒトモシ。流されてきた板の破片に、横たわる様にそれは居た。
火を体の一部として生きるこのヒトモシは、尻尾に炎を宿す図鑑で見たあのポケモン同様火が命と言ってもおかしくないポケモンだ。
炎はまさに命そのもので、消えてしまっては同時に死を意味する。

ある塔にしか生息しないヒトモシ。そのヒトモシが塔から離れた都会の地下鉄に居る筈が無い。
此処にはヒトモシが主食とするモノや、生息に適した環境では無い。と分かる。

「!」

ふと、思考を巡らせついた少年が気がつく。

ヒトモシの火のサイズは徐々に小さくなり、同時に白い体がフルフルと小刻みに震える。

まさか。

急いで抱きかかえてみるも、本来ヒトモシ特有の暖かい体が冷たくなっている事に気がついた。
不味い!
手に着いていた水気を払い、持ち上げられた小さな体を片手で擦る。
サッサッサッと、不思議な音を生み出した片手には新たな水気が纏わりつく。


「やっぱり!」


ヒトモシのタイプは炎。弱点は言わずもがな水であり、水が線路内を独占しているこの空間では最悪としか言えない。

弱っているのならば回復アイテムを使えばよいが、今の少年はギアルのボールに湿った切符一枚と空のモンスターボールのみ。

水を浴びたか或いは浸かってしまったか。どちらにしろこのままの状態は宜しくない。
回復アイテムは無い。となれば、空きのモンスターボールに入れ休ませる事を考えつく。

「……………」


しかし、もしこのヒトモシが他のトレーナーのポケモンならば、ボールの方でポケモンを個体認識している為少年が持つボールで捕獲する事が出来ない可能性がある。
ボールの中ならばそのポケモンに適した温度を保ち、これ以上体温を下げる事は無い。


「大丈夫…かな……」浮遊するギアルがガチンと鳴る。
早く!と促しているようにも聞こえ、少年は慌ててポケットに入れていた空のボールを取り出した。
トレーナーのポケモンでない事を願い小さくこぼす。


「ヒトモシ、少しだけ我慢して」


小さく震え、瞑らな瞳が少年を映し出す。
しかし少年の言葉を理解したのか、コクリと頷いては体をさする小さな片手に身を寄せた。

よし!これなら!

ボタンを軽く押せば摘める程小さかったそれが、一気に手のひらサイズへと大きくなる。
ボールにヒトモシをおさめ、早くポケモンセンターへ………。

タタン。






「…………え?」







静かな空間へと鳴り響きその音は、少年の思考全てを奪いとった。






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