wアンカー | ナノ




小さな影は自身の顔前へと差し込んでは、作業していた仕事を中断せざる終えなくなった。
ついつい気になってしまうのが人間で、ん?とつい顔を上げてみればつらつらと綴られる文字が一番に飛び込んでくる。
気になった彼は何だろうとそれを掴み取れば、同時に降りかかるのは先輩の言葉。無意識に見上げた先には、駅員古株の一人であるクラウドが其処に立っていた。
何かの書類かと綴られる文字を辿れば、その内容を理解した頭がえ?と疑問符を零した。


「先輩………これって……………」


再びクラウドを見やれば、其処には不適な笑みを浮かべた古株の姿。
何か問題有るかと言わんばかりに、デスクの上に置かれたペンを掴んでは書類を持つ彼へと突き出す。


「別に今更不思議がる事無いやろうが」


何を指しての言葉か?
勿論理解しているが、今回はこう言った手で出て来るとなれば、きっとあの駅長代理ではどうしようも無いだろう。
前回は、古株と呼ばれるメンバー何人かが、わざわざ協会へと赴き抗議してきたものの一刀両断されてしまう。
それを知ったジンであったが何食わぬ顔でまるで当たり前だろ?と、言わんばかりに仕事をこなす姿に従業員達は腹を立たせよくバトルをけしかける。勿論内容は自身達が勝ったらここから出て行くと言う事。しかし、協会側から派遣された事もありなかなか勝てやしない。

ではどうするか?


「(署名活動)」


その意見に同意する人々の名前が記入されたそれは、一枚だけでは絶対的に足りない内容ながらも此処にはジンを嫌う存在が幾つもある。従業員分を集め回るのに一週間近く掛かるだろうが、その反面段ボールいっぱいの署名が集まるに違いない。
それに一番の仕事量を持つ清掃員は何百と居り、喜んで署名し次へと回すに違いない。
そんな従業員達が多いと言っても可笑しくない今の現状ならば、下手すれば一週間もかからない可能性だってある。

今現在、一体どれだけの署名が集まって居るのか気になる。
もしかしたら始めたばかりかも知れない。ならば、集まるのにいくらか時間がかかる筈だろう。
差し出されるペンを受け取り、彼はクラウドへと問いかけた。

「この署名って、いつから集めてるんですか?」

「あぁ?先週からやで」

終わった。
そんな単語が彼の脳裏を高速でよぎった。ダラダラと流れる汗を気づかれない様に拭えば、彼は室内をぐるりと見回す。

「他の従業員はどこに?」


その言葉で彼は思い出した。
今此処に居ない理由は、以前ミーティングをした際の書類を提出しに行ったのである。故に此処には彼一人しか居ない。
不味い。
自身を含め駅長代理を良く思ってる人なんて数える位しか居ない筈。

なれば、
今ここで自身が出来る事と言えば何か?きっと彼の同僚は喜んで署名に記入するに違いない。
ジンさんの危機である。


「(えっと…!)他のみんななら、確か休憩室に向かったかと思います」

「は?休憩室?」

汗は未だに止まず早く早く上手い理由をと求める言葉は、なかなか思い浮かばない。それでも、クラウドが向ける疑心をさっさと払ってしまわなければ、困るのは誰でもない自身である。


「はい、ここ最近夜勤ばかり入っていたららしく、皆さんで仮眠するとかしないとか……」

夜勤。
深夜遅くまで仕事に励み、車両の最終チェックなど頭を使う作業を行うそれは、実際はキツいものがある。

休憩室。
其処に向かったのならば行う事は一つしかない。

それを悟ったクラウドが歯切れ悪そうな顔つきになり、なら、仕方ないわ。と零した。


「休憩中ならじゃません方がええな」

よし!今だ!

「なら、はい。これ」

「なんや?お前さん書かんのか?」

「今はまだ。他の皆さんと一緒に書きたいので」


そう告げては、未記入の署名用紙を返してやれば、クラウドはどこか納得行かないながらも黙ってそれを受け取る。
しゃーないな。と、零した彼は「他の連中にも伝えておきな」と言い残し、部屋を後にした。



バタンと閉められた部屋に残されたのは彼一人だけ。
ため息をこぼれてしまった彼はうなだれる様にデスクへと腕をつく。緊張したとふと見上げた先には誰も居ない部屋。

同時に浮かび上がるのは例の人物。




これで少しは時間稼ぎになりますかね?

ジンさん。

























120412


prev next
現25-総36 【浮上一覧-top


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -