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肺を巡っていた煙を吐き出せば、鼻と開いた唇の穴から白い姿をゆらりと表しては直ぐに姿を眩ます。
しかしどこか物足りないと再び吸い込んだ煙草を無意識に噛んで居たらしく、苦い葉が口の中へと入り込んで来る。

っぺ!まず!

『タールが低い癖にかなり苦いと来たもんだから仕方ねぇ……』

今彼が吸っているのは10ミリの煙草。因みにロングである。パッケージの色や形をみる限り近くのフレンドリーショップでは見かけない型であり、普通の煙草を吸う人間からすれば興味を引くものだろう。
一箱に10本入り、一個の値段が250円。カートンで買えば10個入りとなるのだが、この煙草だけはその数字とは異なっていた。
一つ箱に15本の煙草。と、お得感あふれるが如何せん値段とタールに問題があった。一個買うのに470円し、しかも10ミリと来た。先に述べた煙草は低くて1ミリから高くても6ミリの煙草が代表的だ。
値段も安いしタールもそれ程高くもない。中には煙草の匂いを楽しむ女性も居るため、一般的に有名な品物しかフレンドリーショップには陳列されない。

しかし、この男は違った。10ミリで値段の高い煙草を吸っていた。彼が吸っている煙草は通常のフレンドリーショップでは売られては居ない。
置いた所で誰も吸わない。が理由としては合っているだろう。

一般的に出回る煙草のタールは1ミリから6ミリが有名だ。中にはそれしか無いのだと思う人も居る。では何故今彼が吸う煙草が市場に出回って居ないのか?
簡単に言えばタールが強すぎるのだ。6ミリが最高と思ってる皆からすれば、彼の10ミリは未知であり危険そのもの。

むしろ煙草自体が危険な品物だと分かって居るからこそ、それ以上の物に手を伸ばせないで居る。

6ミリでもキツいのに、増してや10ミリなんて……。
そう思うだろう。
勿論それは彼がその煙草を取り寄せして、月1で5カートン買いに向かうフレンドリーショップの店員もそう思うに違いない。

ロングの煙草は他のソフト、ボックスとは異なり言葉通りに長く作られて居る。
少しでも多く長く吸っていたい彼ではあるが、ヘビースモーカーとなれば話は別だ。
一時間に五本近く消費する彼にかかれば、長さなど関係無い。ガリガリと頭を掻き吸っていた煙草を近くの灰皿へと押し込んでは、新しい煙草を一本取り出す。ふと気付き瞳へと映し出されたのは山盛りの煙草を受け止める灰皿。
見事な山を描くそれはカントーとジョウト地方の県境にあるシロガネ山を連想させる。我ながら上手い具合に作り上げたもんだと、関心しながら新たに掴んで出した煙草へと火を付ける。

まずは一口。
まるで深呼吸するかの様に吸い込んだ煙は、流れる様に彼の肺へと飲まれてゆく。
煙が満たされていく感覚に目を瞑り、彼は静かに首を傾け机の上に積み重ねて居た書類達へと手を伸ばした。


『この書類は午後に済ませるか』


掴んで居た書類には提出期限の曜日が記されて居る。まだ5日も余裕はあるが、早く済ませる方が良いだろう。最終的にツケが回って来るのは自分だ。

また一口。
吸い込んだ煙が心地好い。
そう思ったと同時に耳に付けていたイヤホンから、無機質な電子音が鳴る。
上げていたマイクを口元へと移動させれば、タイミング良く言葉が紡がれる。


《駅長代理、挑戦者です》

『今何処だ?』

《シングルで19勝の5車両目です。》

スタンバイをお願いします。

感情の籠もらない声はプツンと途切れる。同時にはいはい。と自分がイラついて居るのが分かっている。

分かり切っているさ。
何故相手に感情が込められて居ないのか?

『さて、仕事と行きますか……』


おめぇら……張り切って行くぞ。

くわえていた煙草を灰皿へと押し込む。
これは戻って来たら棄てなきゃ成らねーな。ぐるりと首を回せば、ボールがカタカタと揺れる。

『相変わらずバトルに関して血の気が多いな……』

誰に似たんだが…。思い描いたとある人物。それを打ち消す様に書類に埋もれたグレーの帽子を掴み取り、部屋を後にした。














111017


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