クリッピング | ナノ


吐き出した言葉は目に見えず、それでも相手に届きしっかりと理解される事を不思議だと思った。
それが'音'と言うで当たり前な事であっても、今の私には不思議で不思議で仕方なかった。

それが当たり前。

しかし、その当たり前が私には出来なかった。
何故か?

簡単な理由。それは………人が…………




《次回の特集はライモンシティで大人気のバトルサブウェイの真相をお送り致します。
皆さんがライモンシティで連想するもの言えば、大観覧車やミュージカルやジムリーダーカミツレさんなどを思い出すでしょう!

しかし此処ライモンシティにはバトル好きなトレーナーにはたまらない施設、乗って戦うと言うキャッチフレーズで有名なあの……》

ふと耳へと届いたのは付けっぱなしだったらしいテレビの内容。
何かのニュース内で組まれている特集らしく、次回つまり明日の内容の予告らしい。
電気の無駄だと近くに置いていたリモコンへと手が伸びるも、ソファーに座りテレビへと釘付けになる二匹と一人の姿にその目的は泡と化した。

仕方ない。

ニュースをBGMとしてツバサは己の作業へと打ち込んだ。

現時点での報告書。
最近のイッシュ地方での目立った出来事、事件、土地の行事など様々な事全てをメールに打ち込んで居る最中だった。

異常気象といった問題も無く、強いて言うなればプラズマ団と言うネーミングセンスのかけらも無い、変な宗教団体が各地で演説をしている位だろう。演説内容はとても面白いもの。
ポケモンの解放。

その言葉につい腹を抱え笑い出したくなる。
昔から共存し互いに依存しあってきた同士が今更離れる事は無い。
いや、不可能に近い。
過去を物語る遺跡や古文書にも記録されるポケモンと人間。古来とも言っても過言では無い位に


それを唱えると言う事は何かしら裏が有ると言う事だ。
私利私欲による独占か、或いは研究の為の採取材料を手放したトレーナーからかき集める為か。理由は未だにはっきりしていない。
勿論それも調査対象に含まれて居る。
一体何を企んで居るのやら。


そう抱いていた時だった。聞き慣れた電子音が鼓膜を揺らす。
何だ?と移した視線の先にはスリープモードにしていたモニター。しかし、カチカチと点滅し画面が明るくなっており、その画面がメール受信と表示されていれば納得する。

折りたたみ式のキーボードとマウスをセット。赤外線でちゃんと動く事を確認した後に届いたばかりのメールを開く。

そして差出人の名前を見るや否や、無意識にツバサの口元が緩んでいたのには気が付かなかった。


元気にしてる?
最近そっちはどう?
任務は順調?
ちゃんとご飯食べてる?


そういった内容のものだ。
何より差出人がツバサの上司であり、大変世話になった人物。
昔と変わらずこうやって構って頂くだけで、申し訳ないと思う反面嬉しいと思ってしまう自分が居る。

まだまだ自分も子供だな。と頭を掻きツバサは返信用のボックスを開いた。

《以上、特集バトルサブウェイの真相!でした!
是非ライモンシティに起こしの際はバトルサブウェイへ来てみて下さい!
2人のサブウェイマスターがあなたの挑戦をお待ちして居ります!》


バトルサブウェイ。
その単語にツバサの手が静かに止まった。
付けていたテレビへと視線が走る。

イッシュ地方のバトル好きな廃人達が集う場所。厳選、努力値振りと言う単語を交わす彼らが集まる其処は、向こうの地方にもあったバトルタワーやフロンティアとは変わらない。

ツバサにはそういったものと無縁な生活を送っていた為か、全く持って興味が無かった。
しかし、上司からの調査対象内メールバトルサブウェイの文字が入っていた時には、頬が一瞬だけ引きつったのを覚えて居る。
調査内容はバトルサブウェイマスターの実力、パーティー編成、1日の行動パターンの調査。

人柄や性格と言った内容が無いだけマシだと思った。
イッシュ地方に来てまだ半年の頃だと記憶している。流石に手持ちのパーティーだと、バトルビデオに残った場合なにかと不都合だ。

それを分かって居たのか、倉庫に戻ったときには対バトル用のポケモンが送られていた。

ああ、当時を思い出すだけでゾッとする。
人混みを激しく嫌うツバサからすればトレーナー達で溢れかえるあの空間は地獄でしかない。
ヘッドホンの音量をマックスまで上げ、対戦相手のはく言葉を総無視しトレイン内を早歩きで抜けたあの時。

ノーマルであるものの、一応、シングルとダブルスに乗車。
サブウェイマスターとして有名な双子とバトルしたが、顔なんて一々覚えては居なかった。

ただ、任務の内容に従いパーティー編成とバトルスタイルを分析し、頭の中へと叩き込んだ。

シングルとダブルスの2つは同士討ちの引き分けと言う、何とも歯痒い形で終了。
暗号のような言葉を聞き流し、トレインから降りた。
もう会わずに済む。そう思えた次の日からはとてもスムーズに作業は進んだ。
一種の解放感に満ち溢れたツバサは任務の一つであったサブウェイマスター依頼を直ぐに終えた。
報告書を提出すれば流石に上司達は驚いたものの、相変わらずの仕事の速さだと高評価を頂いた。

あれから二年。

もう行く事の無いバトルサブウェイ。

テレビでは次の特集へと移り変わって居た。














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