クリッピング | ナノ


カチ、パシャ。

そんな音を立てて小さな液晶画面に映り込んだのはカノワタウン。
そして、その中心を飾るのが転車台だ。
転車台の上に乗るのはシングルトレイン。イッシュ地方の環状線を巡る事で有名なトレインである。まだ週末では無い為、人が少ないものの大きなカメラをセットし写真を取る観光客は何人か居る。
民間と言える建物はそれほど有らず変わりに倉庫と言った建物が存在する。
中にはその倉庫を利用して寝泊まりしている人が居るらしいが、転車台から結構離れた位置にそれらは立てられて居る。
一部シッポウシティ化している部分が有るみたいだが、住んでいる人の数はそれほど多くは無い様子。

夏から秋へと季節が変わった此処最近、青々と茂っていた木々が茜色へと衣替えしている最中だった。
もうそんな季節か。

バイクに跨がるツバサの頬を、少し冷たい風が撫でては過ぎ去ってゆく。
まだ息が白くないと言う事は、雪が降るまでまだまだ遠い事を示している。
今はこうやってバイクでカノワタウンまで来れるものの、雪が降り出しては今の交通手段を変えなければならない。
バイクは何かと小回りが効きスピードも出しやすい為、よく使って居たが流石に雪道をバイクで走る様なまねはしない。
雪道に強い車をどこからか調達しなければならないかと、思いに耽る。

このイッシュ地方にやってきて早三年。
ロケット団の活動拠点であるカントー地方から、わざわざ海を越えてこの異国イッシュへとやってきた。
目的はイッシュ地方の視察及び観察。
新たな潜伏先の一つであるイッシュ。一度は解散したロケット団だが、残った幹部と下っ端達の呼びかけにより散っていた部下が戻って来る様になった。

その数は徐々に増え、カントー地方だけではその人数を収めきれないらしい。
ジョウトにも潜伏し、先週の連絡で幹部の皆様方がジョウトへと上手く入り込んだらしい。

だが、もしもの場合を想定する。ジュンサーや国際警察による一斉摘発を予想してでの避難場所の第三拠点地。其処を選んだのはホウエンやシンオウでは無くイッシュ。
何故こちらかと言うと、此処は向こうと異なり人で溢れ返って居る地方だ。有名な大都市ヒウンシティ、娯楽都市ライモンシティ、夜も眠らないブラックシティ。このイッシュに住む人間が勤め先として七割を占めるのがこの三大都市。街は人で溢れ行き交い、いちいち他人へと気が向けられている訳でも無い。

人を隠すなら人の中。

第三拠点としては申し分無いだろう。
加えてフキヨセシティの貨物機に活動制限をかけれるホドモエの跳ね橋。いざという時にはワンダーブリッジ先にあるシフトファクトリーを活用出来る。
勿論、その他にこの地方には様々なものがある。
それを利用しない訳には行かない。

今日の調査は交通手段の詳細。
此処イッシュでは車、バス、タクシーなんかよりも電車の使用率が断然高い。
数分事に巡る環状線が多い事から、この地方の交通手段は主に電車となっている。
早いし待たずに直ぐに乗れるのが魅力的だろうが、私にはあまり縁のない乗り物。
ツバサはロケット団内部の団員位置は工作員と言う肩書きだ。工作員にも色々な種類があり、その中でツバサが行うのは情報収集。
上層部が欲しがっている情報を集め、報告するもの。勿論簡単な内容では無い。大半が企業秘密に匹敵する内容の為、そう簡単に事を終える事は無い。
故に移住し年単位でその周辺へと住み込み、長期に渡り情報をかき集めなければならない。

抜かりなくそして徹底的に。長年ロケット団に身を起き工作員としてはそれなりに高い地位に座るツバサだからこそ、完璧にこなさなければならない。

手を抜けば、全体へと問題が広がり何百人ものの下っ端団員、そして幹部達が捕まりかねない。

徹底的を常に掲げるツバサだからこそ、今回の仕事もやり遂げなくてはいけない。

撮ったばかりの写真を見直す。
デジタルカメラの中には色んな角度から撮ったトレインと共に、周辺の景色が映り込んで居る。
それは人であったり森であったりと様々。一見ただの風景写真だと思われがちだが、ツバサからすれば全てが貴重な写真ばかり。

人が多い時間。
トレインの整備士達が休憩から戻ってくる様子。どの様なポケモンがそこら辺りに住んでいるのか?本当に様々な情報が写真として、そのデジタルカメラの中へと収められている。
此処で撮るべき写真は全て撮り終えた。

後は拠点である倉庫へと戻り、PCへとデータを送り込む必要がある。

デジタルカメラを壊さぬ様に、カバンの中へとしまい込めば近くの茂みが大きく揺れた。

戻って来たか。

グッと首を回せば、茂みから現れた一人の青年、ツバサと一緒にいる瓜二つの彼だった。

彼は手に小さな包みを持っており、それを確認したツバサは止めていたバイクへと跨がる。そして後を追うように彼も、その後ろへと跨がった。

ずしりと重くなったバイクに、彼が乗った事を確認。


『さて、戻るぞ』


ヘルメットを被り自身の腹へと伸びる温もりを感じては、ハンドルへと手を添えた。















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