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「……タブンネ」



困った様にオロオロするのは、ポケモンセンターのタブンネ。
タブンネは自身を挟む様に腰掛ける二組の双子を、左右にチラ見するが表情は変わらずただ互いに向き合って居ると言う異様な光景が其処に広がって居た。
男の双子。一人はニコニコと笑みを浮かべ、向かいに座る双子に会えた事が嬉しいのかその笑みを更に深める。その隣に座る彼の兄は相も変わらず口元はへの字であり、不機嫌そうに見えるもどこか申し訳無さそうに肩を落とす。
対して男女の双子。厳しい眼差しで視界に写る双子から、視線を外すまいと睨み付けたままである。話せないかわりに感じるその強い眼差しは、酷く居心地が悪い。そして唯一の女性である彼女は、周りの世界を拒絶するかの様にヘッドホンを付け、最終的にはフードまで被ってしまう始末。

双子となれば周りからは珍しい目で見られるが、もう一組の双子と対面して居れば周囲の目は更に集まるだろう。
しかし4人を取り巻く空気は酷く重苦しいもので、異様なのだと分かった周りの人間はそそくさと去ってゆく。
其処でジョーイさんから投入されたのがタブンネ。癒やす事で有名なタブンネならば!と双子達の中へと投げ込まれたらしいが、効果は今ひとつのようだ。

だが、その空気が読めていないのか、笑みを絶やさない彼がねぇねぇ!とツバサへと身を乗り出し話を切り出した。

「君でしょ!以前バトルサブウェイに来て、シングルとダブルスで引き分けしていったトレーナー!」

ワクワクと言う表現が正にぴったりだった。
それ程までに彼の興味を引きつけた存在ツバサ。
任務内容の一部であるサブウェイマスターのバトルを分析する任務で、あえて引き分けとしたバトル戦法を取ったもののそれがまずかったらしい。

ニコニコと笑みを浮かべる彼からはひっきりなしに、バトルしようと誘われる。
勿論それに答えてやれる程ツバサの精神に余裕が無い。彼が誘う度に双子の弟ローが首を横へと降り、バトルを拒絶する。
その様子に口を尖らせる青年は、フードを被ってしまったツバサ本人へと声をかけるも此方の声が 届いてないのか一切の反応が返ってこない。
故につまんない。と唇を尖らせれば彼の兄からやっと言葉がかけられた。


「これクダリ!無理じなポケモンバトルは駄目だと、以前にも言った筈です」

「そう言うノボリだって、本当はバトルしたい癖に」

「今の我々は休暇中です。それにお客様にバトルを強要するのは宜しく有りません」

ちぇ。

ブーブーとつまらなさそうに腕を組んだクダリと呼ばれる青年は、ムスっとし椅子へと深く腰掛けてしまう。
それに呆れた様にため息を付きローとツバサへと向き直った青年、ノボリが深々と頭を下げた。


「自身のポケモンだけでは無く我が弟迄の度重なるご無礼。本当に申し訳有りません」

綺麗に頭を下げる彼だが、その膝の上に居るキバゴが小さく頭を傾げる。
ノボリが頭を下げた意味が分からないのだろう。ツバサが気になるのか、未だにその小さな両手を伸ばし抱っこして欲しいと要求する。
その様子に膨れていたクダリが、笑みを浮かべながらキバゴの頭を撫でた。

「ノボリのキバゴ、君に懐いてるね」


何でかな?
と、ツバサを見るクダリだが、彼女からは反応一つ無い。
本当に聞こえて居ないのかな?と、塞ぎ込むツバサの視界で手のひらをヒラヒラとさせれば、フード越しに濁った瞳がギロリと睨む。

驚いたクダリはすぐさま手を引っ込めるも、口元にニカリと笑みを浮かべてはまたもや身を乗り出した。

「やっぱり、君とバトルしたいな」

だから、またギアステーションに来てほしいな。
暇なときでいいんだ!ちょっと勝ち抜いてまた僕たちの所に来て?君の実力ならサブウェイトレーナーをちょちょいのちょいじゃない?だから、ね?駄目?


双方無反応。

聞こえるのはフード越しにかしゃかしゃと流れる断片的なメロディーのみ。隣の青年に至ってはイライラしてますと言わんばかりの表情だ。

「クダリ」

「だってさ……引き分けとかモヤモヤしない?僕は白黒ハッキリさせたい!」

「お客様にも事情が御座います。無理じはよくありません」


「もしかして君お仕事で大忙し?なら次のお休み教えて!」

そのお休みにバトルしよ!僕地上に出てくるから!

その時はちゃんと書類を仕上げて居るんでしょうね?

う…え、うん。まぁ……。

悪いですがクダリ。仕事を終わらせない限り地上にはだしませんよ

ひどいノボリ!ケチ!アクマ!シャチクー!

ブーブーと文句垂れる彼だが、双子の彼は許さないと首を振る。ねぇ、君たちからもなんか言って?と言葉かけるもやはり無反応である。

それでも諦めない彼の精神は凄い。
やだやだ!バトルしたい!とだだをごね始めた青年に、周りのトレーナーはなんだなんだと注目し始めた。注目を集めた事にローが苛立つ。
ギッと、鋭い眼力で集まりつつある野次馬共を睨みつければ、ちいさな悲鳴をあげた波は散り散りに逃げてゆく。

「……………」

そして目の前に腰かける鏡合わせな男性。彼等を同様に睨みつけてはわかりやすい舌打ちを零した。明らかな嫌悪感に背筋伸ばす彼は言葉をこぼす。

「申し訳御座いません。弟の非礼は私が………」

彼の言葉を遮るようにメロディーがなった。カウンター前に設置される電子掲示板に、名前が表示された瞬間双子の男女が共に立ち上がる。

ツバサとローだ。
二人は目の前の双子に目もくれず、早足でカウンターへ。ジョーイの言葉を聞かず渡された色鮮やかなボールを奪っては出口へと向かった。


「あ、あの…!お待ち下さいまし!」

逃げるかのようにフードを被る彼女はポケモンセンターから出て行く。後を追う形で後ろに付いていた青年が足を止める。


「…………ッチ」


大きな舌打ち。
双子の彼等へと確実に届いたそれ。呆然と立ち尽くす彼へと向け、センターを後にした。



残された彼等は唖然と立ち尽くすしか無い。早足で立ち去った二人を追いかける事が出来なかった。
ピリリとした空気が漂う。
これは不味いと悟った彼は誤魔化すかの様にキバゴを抱き上げる。

「…………クダリ」

「えへ」

ごめんね。
つい興奮し過ぎちゃった。
キバゴを抱きかかえニッコリと笑う片割れには反省の色はない。楽しそうな笑みを浮かべたまま、兄を見上げる。

仕事中のように弟を正座させ、説教を!と思う気持ちを無理やり飲み込む。いまの自身等はあくまでも休暇中。
人目の多い場所で身内とのトラブルは避けるべきだ。




「……タブンネ…」

大丈夫?
まるでそう言ってるかのような、顔を覗き込んできたタブンネ。彼はお騒がせしました。と小さく零す。

ガヤガヤと賑わうポケモンセンターの中、こぼれ落ちたため息が雑音にかき消されていった。












121203
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