クリッピング | ナノ


紙袋いっぱいに詰められた食材の数々。
隣に居るツバサと瓜二つの彼は2つ持ち、計3つの紙袋が其処に存在していた。
パプリカ、人参、キャベツに食パン。ボトル式の大きな調味料に洗剤。栄養ドリンクに緊急用の医療道具。

流石に買いすぎたかと思う所は只あるものの、これからの事を考えればこれくらいが丁度良い。
これで当分は外出せずに済む。とツバサは安堵した。
人混みを酷く苦手とするツバサからすれば、外出しないと言う事にかなりの安心感が生まれる。
周りの声を断ち切る用にいつも付けられては居るゴツいヘッドホンの出番はしばらく無いだろう。

流石に長時間での着用は両耳への負担が大きい。出来るだけ痛みが生まれない用な物を使用しているとは言え、痛い時は普通に痛い。

不健康だと言われる生活を繰り返すツバサだが、もはやこれがツバサの生活スタイルとなってしまって居る為に改善していくには時間がかかるだろう。

そしてこれから続くだろう徹夜に、本人は改善しようなどとはこれっぽっちも思っていなかったりする。

今回部屋に籠もる理由。それは長時間に渡るハッキングをする為だ。
流石最先端地方と言われるイッシュ地方なだけに、コンピューターのファイヤーウォールは厚く簡単に突破するのが難しい。
同時に追跡システムが自動で立ち上がり、ハッキングを仕掛けてきた相手を特定する為それに対する対策も取らなければならない。
PCの前から離れられない作業へと取りかかる。

徹夜がどれだけ続くか分からない。
それに、丁度冷蔵庫の中身もなくなりかけていた。

拠点に戻ったらPCのメンテナンス、それから回線のチェックをしなければならない。
昼食は作業中に取ればいい。


人通りの無い公園でそう思っていた矢先だった。

ポトポト。

可愛らしい足音がツバサの後ろから生まれた。
同時に隣を歩いていた彼が、フッと鼻で笑ったのが聞こえる。何か居るのだろうか?
静かに振り返った先には何も無くて、なにが居たのかと彼に問うとこでそれがツバサの足へと触れた様だ。


ギュッと掴まれたGパン。視線を下ろせば、ツバサを見上げる瞑らな瞳を持つ緑色のポケモンが其処にいた。

実際に見た事は無いが、確かイッシュの洞窟に生息するドラゴンタイプのポケモンだ。

『キバゴ?』


ミニリュウを連想させる可愛さをもつドラゴンポケモン。
此処はライモンシティから少し離れた公園だ。野生のキバゴが居る場所ではない。
ならば、厳選漏れから廃人達が棄てたキバゴだろうか?
いや、にしては身体付きはしっかりしている。しゃがみこんでズボンを掴むキバゴに触れる。
顎下を撫でてやれば、くすぐったいながらも身を寄せて更にとせがんでくる。

クルルと小さく鳴くキバゴが愛らしい。
これでドラゴンタイプなのだと思うと、ポケモンとは本当に分からないものだとつくづく思う。


其処でふと気付く。
この人懐っこい性格。顔色も悪くない。
となれば、野生のキバゴでは無いと確信する。
洞窟から単身で出て来た可能性は低い。そしてこんな大きな都市で野生の迷子なんて尚更可笑しい。
と、なれば?

嫌な汗がツバサの背中を支配する。
野生のキバゴではない?ならば?
残る一つの選択肢に嫌な予感しか………



「キバゴ、此処に居ましたか」


明らかに人の言葉。
撫でていたキバゴが先ほどよりも嬉しそうな声を上げる。
カツカツと革靴を鳴らし歩み寄ってくる存在は人間以外有り得ない。

人間。

瞬間、ドッドッと激しく鳴りだした心臓とキバゴに触れている手が熱くなった。汗が止まらない。
いつもかけているヘッドホンへと手が伸びない。
一歩遅かった。
そんな言葉がツバサの中へと流れ込んで来る途端に、頭の中が真っ白になった様な感覚をツバサを襲う。

早く此処から離れなければ。

未だに掴まれていたキバゴの手をどかしツバサはすぐさま立ち上がる。
後ろから「貴方は…」と声を掛けられるものの、隣に立っていた彼がツバサの後ろへと静かに移動する。
それと同時にツバサは置いていた紙袋を持ち上げる。
一瞬襲われた立ち眩みに足元がふらつくも、すぐさま達尚しては一気に走り出す。

「あっ!お待ちくd………」


後ろで誰かの声がした。

しかし、止まってやれる程ツバサの頭の中は冷静では無かった。
まるでトルネロスが巻き起こす暴雨の様に、ツバサの中は激しく乱れて居る。聞こえない。
聞こえない。
相手の声なんて聞こえない。
何も
何も聞こえない。


腕の中で大きく鳴る紙袋に耳を傾け、周りの雑音を全て断ち切る。

同時にカーンと鳴り響いた公園の時計台。
それを最後に音を拾い上げ、ツバサは公園を後にした。
















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テーマ「人外ファンタジー」
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