謳えない鹿3 | ナノ



「ん?しんべヱと喜三太はどうした?」


さて、今から久々の用具委員会を始めようとした時だった。
用具委員会委員長である留三郎は、本来ならば既にきている筈だろう一年は組の姿が見当たらない事に気が付いた。
同じ一年生であっても、組が異なるろ組の平太はあれ?と今になって居ないと言う事実を知った。
実技の授業を行っていたろ組と座学を行っていたは組では場所が異なり、今回は一緒に来る事は無かった。
平太は周りを見回したと同時に、その隣に居る作兵衛も一緒に見回す。


「可笑しな……今日は委員会活動が有る。と、ちゃんと伝えた筈なのにな……」


もしかして、また補習授業か?
そう頭を掻く留三郎だが、委員会活動に遅れる場合等は前持って伝えに来る2人だからこそ不思議に思うしか無い。

道草でも食っているのだろうか?
逆に言えば良くトラブルに巻き込まれるは組だからこそ、今回の委員会活動も穏やかに過ごす事が出来ないのかも知れない。

やれやれ。と、肩を竦め苦笑を浮かべた留三郎は、自身が持っていた用具器具を三年の作兵衛へと押しやる。
作兵衛は慌てながらも落とすまいと受け取れば、留三郎は開いた両手で2人の後輩の頭を乱暴に撫でてみせたのだった。


「2人を探して来るから、お前達は先に活動していてくれ」



場所は東廊下先にある床穴を塞ぐ事だ。








* * *









「…………」

『…………』


一方その頃。とでも言って置こう。
一年は組の教室内には静粛が包み込んで居た。
一方はジッと綴られた文字を見上げ、もう一方はその様子に苦笑を浮かべるしか無い。

だが、それに終わりを告げるかの様に静かに開いた唇に、やっとか。と安堵した土井先生の気持ちを打ち壊したのが五年は組の亮であった。


『る』

「ろ、だ。摩利支天……」



土井先生の肩が落ちたのが分かった。
その様子に亮はあれ?と首を傾げて見せる。


「うーん、やっぱり……似ている文字を間違えるか」


黒板に綴られるのは白い文字の羅列。
それは学園に入学して一番に覚える筈の「あいうえお」と言ったものでは有るのだが、やはり亮にはそれらを上手く読み取る知識が備わって居ないみたいだと改めて土井先生は理解した。

先週行われた今期の大きなテスト。
そのテストで最下位を取ってしまった亮の点数だが、編入してくる前の学園で既に取得していた単位により退学する事は無くなったと聞く。
勿論それだけでは無い。この忍術学園に編入してきた際、亮が受けてきた実技の成績が良かったのか学園側からしても高い能力を持つ生徒を軽々と手放したく無いのだろう。

そんな亮へと課せられたのは補習授業。
基礎となる所を、間違えが多い所を直す為に今回亮は土井先生の授業を受ける事になったと言う訳だ。

一年は組と言えばトラブルが毎日の様に起き、その度に授業の進みまでも遅れよく補習授業となる形が多い。
その度に何度も詳しく教えている土井先生が適任だと判断され、亮の補習授業を指導する事になったのだ。

五年は組の実技担当、座学担当の先生方からは優秀では有るが基礎な点が抜けていると聞いていた土井先生、改めて亮の知識がどれほどのめのなのか今改めて実感した瞬間だった。

試しに暗号化した文章を解かせてみた土井先生は、時間を掛けずに解いた亮に流石飛び級しただけの事はあると思ったが、「きょうはてんきがいいです」とワザと平仮名で書いた文字を亮に読ませた所『さぉうほとんさかりりといす』と、日本語では無いまるで呪文の様な言葉を発した時は彼はかなり驚いた。



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