謳えない鹿3 | ナノ



「補習授業?」


筆を置いた雷蔵の言葉に亮は口元をひきつらせながらコクリと頷く。
本来ならばこの時間帯には各教室での授業を行っているのだが、今回は五年いろは全ては自習と言う形を取っていた。
今後の授業の進み方など打ち合わせで、先生方が不在だと知るや否や八左ヱ門は亮を連れ、自身のクラスろ組へと連れて行った。
勿論それにほんわかは組一同は抗議の声を上げるも、慰め会をするんだよ。の矢羽根の一言で事が収まったらしい。

自習となったクラスでは各自勉強していると思っていたが、どうやら無事テストを終え安心しているのか机の上には教科書らしい姿は一つも見当たらない。
つまりは誰も勉強していないと言う事だ。

八左ヱ門の席の隣に座るのはは組の亮。
だが、やはり先ほど叩きつけられた点数の低さに衝撃を受けた為に雰囲気は明るいものでは無い。どんよりとした重い逸れをその後ろに背負っている。

張り出されたテスト結果。
其れにはテストを受けた全ての五年生の名前が出され、言わずもがな亮の点数を見てしまった双忍もなんとも言えない表情だ。

テスト前日、懸命に勉強しあの八左ヱ門に迄教えていた亮だが、いざ結果を目の当たりにした瞬間には己の目を疑った。
何せあの八左ヱ門が合格点を行ったのは誰でも無い亮の指導の結果とも言える。テスト前日、寝ていた双忍はいつもの点数より低かったのは仕方ないとは言え、流石に亮の点数は無いだろうとしか言えない。

確かに今回のテストは難しく、合格点を取れなかった生徒も居るがそれでも彼等はギリギリ50点は行っている。
そう。そんな数字を出したのは亮ただ一人だけ。

いくら今回の筆記テストが初めてとは言え、それだけでは理由にはならない。
三年生から五年生へと飛び級迄もしているのだから尚更だ。

そして、そんな亮へと送られた慰めの言葉は「補習授業」と言うなんとも嬉しくないお言葉だった。




『補習授業…補習授業……補習授業』


ぶつぶつとまるで念仏を唱える僧の如くつぶやく亮に、八左ヱ門は何も言えない。
何せ教えて貰っていた自身が合格点を上回り、教えていた本人が逸れを下回ってしまっては自身のせいか?なんて考えしまう。


「でも、可笑しいよね?」


そう呟いたのは八左ヱ門と亮の向かいにいた雷蔵の口からだ。
彼の隣に座っていた三郎が面白そうに亮を見つめていたその視線を外し、何がだ?と隣の友人へと向けられた。



「だって亮君八に教えていたと言う事は、亮君は答え方を理解していた。となるでしょう?」


亮が八左ヱ門へと教えていたのは、暗号化された文章を与えられた地図に示される罠の位置を把握せよ。
の事だった。
暗号化された文章を時間掛けずにすぐさま解いた亮を目の当たりにした彼等は勿論驚いた。そして、逸れを苦手とする八左ヱ門が教えて貰った。

此処までよしとすれば、浮かび上がってくるのはある疑問だ。
確かに今回の暗号化された問題は出されたものの、それは解読が難しくとされる最後の問題として出されていた。
実際、暗号を解読すると言う問題は、五年生の中で学ぶ授業の中で一番に面倒で数学の様に苦手とする生徒が多い。

だが逆にそれの解き方を分かって居れば、他の座学の内容など簡単すぎると言っても過言では無い。
逸れを直ぐに解いた亮ならば、他の問題は苦ではない筈。
正にい組の兵助の様な点数を叩き出しても可笑しくはない。
だが、実際に亮は皮肉めいた素晴らしい点数をはじき出した。

故に疑問が湧いた。

一番に難しい問題を解けて起きながら、何故あんな点数なのか?






>

prev/next/一覧

現5-総55
[ back to top ]
一覧/浮上/top
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -