謳えない鹿3 | ナノ



朝食を終えた今の時間帯。ガヤガヤと賑やかになる其処は五年生教室前の長い廊下。
一体何かあったのかと疑問に思う俺だが、一昨日終えたばかりのテストを思い出して「ああ、もうか」なんて小さく零してしまう。

其処へと近付くにつれ長く白い紙が視界へと入り込み、綴られる文字が生徒の名前なのだと分かる。

それが一体何なのか?
五年もこの学園に在学して居れば、紙が記す意味は嫌でも分かってしまう。

その紙はテスト成績表。点数の高かった順を右の先頭とし、点数が低い、つまり悪い生徒は左へと名前が書かれていく。


紙の先頭を眺めれば、見慣れた人物の名前が記される。

五年い組久々知兵助。点数は100点。

うん、相変わらずだと俺は頷く。

兵助は実技だけではなく、座学の成績も良い為90点以下の数字を出した事は一度もない。
辛うじて97や99と言った点数を取ったとしても、それは記入欄を一つズレて書き間違えた程度であり内容自体は全て把握している。

兵助の次には同じい組の生徒で、2人分明けて俺の名前が記される。
点数は96点か……。

どこを間違えたかと考えながら左へと視線をずらせば、い組の友人等の名前が続く。
勿論その中に亮君にストーカー紛いな行為を行った彼の名前。無意識に眉間がよる。
そしてそんな彼の次辺りに順位が同じ生徒の名前。

三郎と雷蔵の2人の名前。
きっと三郎辺りがワザと合わせたのだろうと。
双忍だからって器用な事をする必要も無いだろうに…失笑混じりに再び視線を這わせれば、やっと八の名前を見つけ何故か一安心する自分が居た。

自分自身では無いと言う事なのに、安心してしまう。点数を見れば、ギリギリ合格点以上でありどうやら亮君の指導の結果とも言えるだろう。


「さて……」


では、その肝心の亮君の名前は……。

ゆっくりゆっくりと左へと視線を動かすにつれ、其れを示す理由に何故か気持ちが落ち着かなくなっていく。
いやいやそんな訳ないでしょう。
そう自身に言い聞かせ、合格点数ラインを下回った所で俺はまた1から紙を見直す。
兵助から始まり、次に俺でそして双忍に八に……。


「………」


一人一人の生徒の名前を見間違わずにそして見落とさずに、まさに目を見開きながらゆっくりと流れた視線の先。

其処でやっと見つけた亮君の名前に安堵した途端に、下に記される点数に俺は間抜けな声を上げてしまった。




* * *




「亮、元気だせよ!」


明らかに裏返った声が向けられた先には重い影を身に纏う一人の生徒だ。重々しい雰囲気ながらも朝日により輝く映えた薄桜色は、それらの雰囲気を少しばかり殺すも本人の口から図れるため息により更に暗く色付く。

それは紛れも無く亮本人であり、その隣には何故かろ組の八左ヱ門とい組兵助の姿があった。


事の始まりは朝食を終えたその瞬間からだ。

八左ヱ門は朝食を食べようとしない亮を食堂へ連れて行く為に、基本的に朝は亮と一緒にいる事が多かった。
今回も無事、ちゃんと朝食を取った亮に満足した八左ヱ門は、とりあえず教室へと共に戻ろうとした途中である物を発見した。


テスト成績表。


長い紙がかかれたそれがズラリと並ぶ。
亮にはそうとしか見えず、それが意味する理由など分からなかった。
しかし、八左ヱ門にこれが一昨日終えたばかりのテストの成績表だと知らされた時には、初めての経験な為に亮はどこか胸が躍った。

だが、胸踊る亮の気持ちなど知らない現実は、逸れを無惨に切り捨てた。

左につれテスト成績が悪い生徒の名前。
簡単にそう教えられた亮はゆっくりと探す名前の中に、自身の名前が見つからない事に疑問を抱いた。
勿論それは隣で合格点を超えたと喜んでいる八左ヱ門にも気付かれる事となる。

何度も何度も見直す亮を心配した八左ヱ門も、一緒になって亮の名前を探す。
されど、見つからない。

途端に、八左ヱ門の背中にはひんやりとした汗が伝う。

そんな筈ないだろう。
だって、今回は亮に教えて貰って俺は合格点を超えたんだからよ。
そう呟きながら再び頭から視線を這わせ、ゆっくりゆっくりと眺めた先にやっと見つけた亮の名前に八左ヱ門は安堵した。


「亮見ろ!ほら此処に!」


そう指差した先に示された点数に2人が言葉を失った。














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