謳えない鹿3 | ナノ





亮!トスだ!

同時に上がるのはエール。
ふと、身を乗り出せばバレーボールを空高く持ち上げ、友人へとトスする薄桜色の頭が見えた。五年生の制服を靡かせたそれに、少年は目を細める。

見たことの無い五年生だ。誰だろうかと更に乗り出せば、隣にいた友人が慌てて肩を掴んだ。

「兵太夫!危ない!」

クラスメートが止めて気がつく。あともう少し乗り出して居れば、自分はこの三階から地上へと真っ逆様状態になっていただろう。危ない危ない。

「ありがとう三治郎」

軽く礼をするも、少年は再び薄桜色へと視線を戻す。今度は乗り出す事せず、ヘリを掴み落ちないようにする。

「なにかいるの?」

「ん」


兵太夫の様子に呆れた三治郎だが、からくりにしか興味ない友人が噛みつくようになにかを見つめる。その様子に気付いた少年も、同様に乗り出せばあ、と小さくこぼした。
「あれって、しんべヱと喜三太が言っていた五年生じゃない?」

「だよな!薄桜色の五年生なんて初めて見たから、もしかするとって思ってさ」

あれが噂の……呟いた時だ。
空を飛んでいたバレーボールが例の五年生へと当たった。
兵太夫と三治郎があ!と声が重なる。
額に当たったのだろう。ぐらりと傾いた五年生だが、直ぐにバランスを整え弾かれたボールを取る。
ボールを片手でもち、片手をヒラヒラ揺らす姿。
どうやら大丈夫らしい。
ため息一つ。兵太夫からだ。


「抜けてる人だね」

「それ僕も思った。あの人って飛び級したんだよね?」

「三年生から五年生に」

「そうは見えないよね」


話しを聞く限り五年生は組との事。本当に優秀ならば、い組、ろ組だろうが、あの編入生はは組に入っている。そこまで優秀ではないと言う事なのだろうか?

学校が違う為、勉強している箇所が忍術学園三年生の教科を過ぎてしまった。故に、あの編入生に合わせてーーなんて理由かもしれない。


薄桜色へと友人達が集まる。
ほんわかは組。なんて言われているは組のメンバーだ。彼らは亮と呼ばれた五年生に近づくや否や、額をさすったり顔を覗き込んで来たりと様々。
彼を心配しているのだと遠目からでも見てわかる。


「うーん、何だか違和感」

「違和感?」

「クラスメートに対してって言うよりも、何だか違う感じがするな」

「何が?」

「何か」


でも、違和感あるだろ!
タシタシ、と縁を叩いて何かを訴える兵太夫に、三治郎は首を傾げるしかなかった。違和感?何の違和感すら本人が分かっていないのに、自身がわかる筈ないだろ?


「クラスメートだから心配してるじゃないの?」

「うーん?」

「言った本人が悩んでどうするのさ」


兵太夫の勘違いじゃない?僕は仲のいいクラスメートにしか見えないよ?

そう返してやるも、何か腑に落ちない兵太夫は膨れる。
やっぱり気のせいかな?でもな、何か違うような?

ぶつくさ呟く友人に三治郎は苦笑い。
考えすぎだと一つに纏めた三治郎は、再び窓の外を眺めた。

集まってきた五年は組達。あの編入生と言葉を交わしていた。すると、一人のクラスメートが彼の額を撫でる。途端、自分も自分もと手がは組達の手が彼へと伸びた。

うわ!なにあれ、こわ!
と兵太夫がこぼすもその光景は消え、新たな場面を生み出す。

一人の友人が薄桜色の手を取る。集団から抜け出した影は3つ。編入生とその手を掴み先導する生徒、そして編入生の背を押す小さな影だ。
編入生を集団の中から助け出すも、取り残された彼らは黙ってはいなかった。なにやらブーイングめいた声をあげるなり、三人を追いかけはじめる。

バレーから鬼ごっこに変わる瞬間。
その流れをみた一年生は、ブッと吹き出しすぐさま笑い声を上げた。


「あはは!は組の先輩らしいや!」


ほんわかは組。なんてバカにされている先輩だ。テスト成績がうんたらかんたらとしか聞かないが、あんな光景を見てしまっては何故そう言われているのかはっきりする。

五年生らしくない柔らかさ。
とでも言えるだろう。その素顔に、少年はつい吹き出してしまった。


「なんかさ」

「ん?」

「ああいうの、いいよね」

「うん」


上級生になるにつれ、先輩の数は徐々に減ってゆく。何故、一年生のように何十人もの先輩達がいないのかわからない。きっと、何かしら理由があって辞めて、居なくなって、この学園に残った数少ない存在がいまの先輩達だ。
その中での五年は組の存在は酷く珍しい。
他の上級生と比べ、生徒の数は多くいまだにその数を保っている。

自分達が上の学年になるにつれ、過去の先輩達と同じように誰かが欠けていくかもと言う恐怖がある。
しかし、目の前五年は組を見ているとその恐怖が薄れていくような、確信では何か……そんな気がする。

つぶらな瞳がパチリとまばたき。
小さく息を吸っては、よし!と意気込んだ。


「三治郎、は組に戻らないか?」

「ん?これから図書室でからくり仕掛けの本を読むんじゃないの?」

首を傾げる友人。
そう言った約束で、自分と彼は教室を出たのが数分前の話し。だけどーー。

「からくり仕掛けの本はいつでも読める。逃げやしないよさ。」

それに、

「いまは組に戻れば、まだみんな居るだろ?」


その言葉にピンときた。
どう?
と、楽しそうに笑う友人。うきうきする彼の気持ちが伝わってくるかのようで、釣られて三治郎も笑った。


「うん!は組に戻ろう」


勿論、急いで。
は組のみんなが揃っているうちに。

二人は顔を合わせ、また笑う。そして、急げ急げと、来たばかりの廊下を急いで戻ってゆく。
その足取りは軽く、気持ちがウキウキとする。

みんなが散らばる前に行かねば。

共に、遊ぶ為に。

共に、鬼ごっこする為に。


廊下を駆け抜け二人の一年生。
それを注意する存在はどこにも見あたらなかった。










130712

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