謳えない鹿3 | ナノ



見えない様に仕組まれていた廊下の落とし穴。
1.2年生がかかったら大変な為、せめて目印を置いて欲しいものだと抱く。

今度こそ落ちないように、脇へと避けて進んだ所で亮が抱えている量を間近で目の当たりしついつい首を傾げてしまう。
両手に抱える用紙と本。
用紙は束で其処に存在しかなりの厚さを無言で主張している。
まさか亮君この紙の分プリントしてこいとか言われたのかな?
流石の三年生の彼も此処までの大量なプリントをやってこいと言われれば、最低でも3.4日はかかってしまう。
もしや、先生から嫌がらせでも受けているのでは無いか?同じ三年生の妄想癖の酷い彼では無いが、一度そう考えてしまうとぐるぐる回るいやな感じは止まる事はしない。

一方亮君はいきなり静かになった僕にただ首を傾げるだけで、分かっては居ない。
当たり前だよね。ちゃんと言葉にしないと意図は伝わらない。

僕はそれどうしたの?って彼が抱えているそれを指を指せば、アハハ…と乾いた笑い声が返ってきた。


『補習授業のプリントです』

「補習、授…業?五年生の?」

『いえ、一年生のです』


一年生?
亮君は五年生で何故其処に一年生の補習授業が出てくるのか?
分からない事ばかり浮かんでしまう僕は、気付かない内に難しい顔をしていたみたい。
クスクスと笑う亮君の声で、自身の表情に気が付いて首を振っては彼へと向き直った。


『以前忍術学園で受けた大きなテストを覚えて居ますか?』

「うん、覚えてるよ」

単位が大きく関わってくる前回のテストは、委員会活動を一時休止させる程までな位大きなテストだった。
委員会活動が無いその時間帯をテスト勉強へと注ぐ為にと取られた期間でもあった。そのテストで何かあったのだろうか?

亮は飛び級で五年生へと上がった人物だ。
経験共に知識も豊富だと三反田は思って居るため、テストは大丈夫だと思っていたが……。


「あ」



もしかして?

と伺う様に問いかければ、亮は小さく笑って返すだけ。
浮かび上がったそれ。
内容は三年の仲良し組達と亮で勉強したあの日。
返信の無い恋文騒動から流れる様に皆で集まり勉強会を行った。
あの時、亮君は基礎となる文字の読み書きが苦手と言う事を知るきっかけとなったあの勉強会。

暗号化された難しい文面をすらすら解いちゃうのに、基礎の文字が苦手と言うちょいと変わった彼に僕は可愛いと思ってしまったのは内緒の話。

話しは戻る。

つまり以前のテストで赤点を取ってしまった亮君は、それをカバーするために補習授業を行っていると聞く。先生はあの一年は組教科担当の土井先生。
何度も何度もわかりやすく且つ覚えやすいように教えている土井先生の授業は、忍術経験の無い人でもすんなりと頭へ入りやすい内容だ。
先生方も分かっている。
基礎である文字の読み書き。これを土井先生に教えて貰い、亮の持っている知識が兼ね備えば次回のテストでは高得点を取ったと言っても過言ではない。

それに次に行うテストまでにはまだしばらく時間がある。
その間に亮君にみっちりと文字の読み書きをたたき込ませると言う事か……。


『三反田さんは如何でしたか?』

「へ?なにが?」


テスト。

クスクス笑う亮君。
うわ、もしかして僕考え過ぎて間抜け面晒しちゃったかな?
そう考えれば無性に恥ずかしくなって、隠す様に両手で頬を摘んで見せた。


「おかげさまで!みんなで勉強会した甲斐があって、赤点は免れたよ」

以前は風邪で寝込んじゃって、今回のテストを受けないと危ない所だったから。

そう言えば、亮君は良かったですねと緩やかに返してくれる。
次に行われるテストは季節が変わって冬休み前にある。それが終わって、単位を取れば来年から僕達は四年生となるのだ。
いや、そこまで考えるのはまだ早い。

大きなテストが終わり、ぽっかりと開いていた委員会活動。テスト週間としてお休み中だった委員会では、遣ることが沢山あるのだ。


『三反田さんは今から長屋へ?』

「ううん、保健委員会活動の為に医務室行く途中!」


保健委員会活動。
そのフレーズに僕はある事を思い出す。そう言えば亮君がどこの委員会に所属していると言う話しをまだ聞いて居ない。
数多く存在する委員会は、常に人手不足で猫の手も借りたい状態。だから、編入してきた亮君と言う存在は、何が何でも我が委員会に!と言う先輩方が多い筈。なのに、そう言った話が流れないのはなぜ?

もしかしてタイミング的な問題もあるのかもしれない。
亮君が編入してきて間もなく開かれたテスト。皆単位の為に必死に勉強していたから、委員会所じゃなかった。
委員会の話が流れてしまったのかも知れない。

ならば、此処で保健委員会をアピールして、少しでも株をあげて置かなくちゃ!




「これから保健委員会活動なんだけどね、僕スッゴい楽しみなんだ」

『楽しみ?テスト週間で委員会がお休みだったからですか?』

プリントを持ち直した亮君が、僕の顔をのぞき込んでくる。

「うーん、それもあるけど。委員会のみんなが集まってワイワイするのが楽しくてね」

『ワイワイ…ですか?』


きょとんとする亮君に僕は頷く。本来委員会活動とは学園の為に生徒が行う委員会である。それは危険な刃物などを整理したりと、危ない作業もある為ワイワイと言うよりも、ピリピリした雰囲気が漂うもの。
そう言った表現をした僕の言葉に亮君は驚いて居るんだと思う。


保健委員会が主に活動する医務室。此処で皆委員長に指示された作業を行う。
が、この医務室には危険がいっぱいなのは、僕達保健委員しか知らない話。まず薬棚。此処には色んな薬が収められる。同時に猛毒となる薬や、組み合わせ次第では爆発を起こすものだってあるんだ。それをひとつひとつ間違えずに在庫チェックする作業、そして緊急治療時に皮膚へと刃物をさす際に使う器具の消毒に整備。
数え切れない程の危険な物で溢れる。
細心の注意をはらっての作業は大変。
でも僕は保健委員会活動が楽しくて仕方ない。


『どうしてですか?』


わからないといった雰囲気を纏う亮君に、僕はにっかりと笑って答えた。


「委員長に後輩達。みんなで楽しみながら作業が出来るからかな」


棚を倒したり、包帯巻き器具を壊したり、不運委員会なんて呼ばれるなだけある惨事にみまわれる事もある。
もみくちゃになって薬被ったり凄い事になるけど、結局最後は善法寺先輩が笑いながら「片づけようか」で終わる。


片づけも大変だよ。
でも、やっぱりみんなと一緒に委員会活動が楽しくてさ。


「だから、亮君も」



良かったら、一緒に保健委員会で活動してみない?


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