謳えない鹿3 | ナノ



パチンパチンと算盤の珠を弾きながら、同時に筆を走らせる静かな空間。下級生達はおばちゃんが握ったお握りで満腹になったらしく、先ほどのグダグダした脱力感は全く見当たらない。
パチ、パチ、と間違え無い様にゆっくりではあるが、帳簿を一つ一つ確認しつつやっていく様子は何処か微笑ましい。
変わって上級生達はスラスラと仕事をこなし、終えては次の帳簿へと目もくれず手を付けては広げる。
左手で帳簿を捲り右手に持つ筆を指の間に挟め、使わない指で珠を弾き計算していく。そして帳簿に数字を書き込んでは次の項目へと目を通す。その上級生の一人からは算盤の音をたてる事は無く、ペラペラと紙をめくり同時に筆が進む。
不慣れな作業な筈なのに次々と作業をこなしてゆく。

いつも通りの会計委員会、帳簿合わせに再記入等の作業。どこも変わらない。
強いて言うなれば亮の存在だろう。
私語する事なく己の仕事を着々と進めていく。

そんな亮をチラリと見る。
顔の半分を隠す編入生がどこを見てどう動かして居るのかが分からない。
唇は変わらずにキュッと閉まり、表情筋を全く動かさない。すると顔が僅かに上がり彼は咄嗟に視線を伏せ、手元の作業を行うフリをする。同時にパラパラ、と帳簿を捲る音に彼は怪訝な顔付きと成った。
「どうした?」
と、かけた。
亮は口元に小さな笑みを浮かべては、過去の帳簿、団蔵が付けた帳簿、そして自身が書き直した帳簿を文次郎へと差し出した。

『終わりました』

意外と早く終わらせた様だ。小さな声で囁く亮。
きっと、自身の作業に集中している委員達の邪魔をしたくは無いのだろう。小さな気遣いに感謝したいが、文次郎は分かった。と言い脇に置いて居た二冊の帳簿を入れ替わりで亮へと渡す。

「やり方は先ほどと同じ」

過去の帳簿と今の帳簿、分かるな?
亮は頷き一つで再び作業へと戻る。

先の作業と変わらない様子に、彼は脇に積まれた帳簿の山へと目を遣る。それは自身が片付け様としていたものばかりで、下級生達に遣らせては時間が掛かるものばかり。
すると、彼は其れを2つに分ける。
過去の帳簿と新しく発行されたばかりの帳簿。
その帳簿には文次郎に三木ヱ門や左門そして左吉が書いた帳簿達。
綺麗に2つに分けた文次郎は、静かに己の作業へと戻って行った。















110704

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