誰も居なくなった学園を思っても何も得られないです。
だったら自身に課せられたものをこなし、上を目指すしかない。
亮はそう答えた。
思っても、現実にはならない。無意味だと。そして同時にそれらの願いが叶ったとしても…
『ただの自己満足ですよ』
先輩も先生も学園長もそれぞれしなければならない事が沢山あるかも知れない。
それを全部無くして、自身の我が儘に付き合って貰いたいと願う程、僕は自己中に成った覚えはないので。
クスリと、伏せられた向こうで笑った気がした。
それが何を意味しているのかおばちゃんには分からない。
だけど、スラスラと述べる亮の言葉と、本人が取る態度は矛盾している。
それは誰の目から見ても分かる。
体がだるいのか?疲れているのか?お腹が空いてからか?
どれにせよ、台詞と態度が合わない。
それでもおばちゃんは注意する事無く話を聞く。
静かに耳を傾け、亮の一言一言を確実に耳へと通して行くのだった。
そこで亮がふと何かを紡ごうと空気を吸い込んだ気がした。だけど、それが言葉として現れる事は無く音を発する事せず亮の中へと溶けて行く。
未だに顔を上げない亮。
おばちゃんは深く瞼を閉じては浅い思考に浸る。思い考えれば不思議と鎖の様に繋がれて行く言葉が、おばちゃんの頭を乗っ取り言葉が発せられた。
「私ねこの時間帯迄食堂で片付けをして居るの」
「偶にだけど忍たま達が訓練明けの小腹を満たす為に、お握り貰いに来たりとか」
「毎日って訳じゃないけど」
「でも、滅多に人は来ないわ」
「それで良ければ、遊びに来てくれると嬉しいわね」
フフフ。
と楽しそうに笑うおばちゃんの笑い声を拾う。
どう言った意味か?
それは言葉を発したおばちゃんにしか分からないだろう。
だけど、少しだけ間を空ければ亮は伏せながらもコクリと小さく頷いた。
パチリと弾けた。
灯された小さな灯火を支える、細く透明の蝋は己の命をまた一つ削り食堂内に光を届けて居た。
きっと此処でその命全てを燃やし尽くしてしまうだろう。
それでも構わない。
何故なら此処には自身の光を必要としてくれる存在が、二人も居たのだから。
了
110606
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現33-総55
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