謳えない鹿3 | ナノ



何を言って居るんだお前。と言いかけた時だ。あれ?亮先輩?なんて上がる後輩の声を聞けば誰だって振り返るもの。なんだか今日は振り返っての繰り返しだな。なんてくだらない考えを隅っこへと追いやった時には既に亮は居なかったらしい。
先ほど迄隣にいた筈の存在はどこにも見あたらず、ぽっかりと空いた人一人分の空洞。
亮が居なくなって居た。
隣では亮君?と
周辺を探す作兵衛が居るが、その視界に編入生を捉える事が出来ない。


「留三郎!後輩を苛める様な事はするなよ?!」

「誰が苛めるか?!」


お前じゃ有るまいし!と彼の後ろで地面にへばりつきながら息をする後輩達の姿が写り込む。全身泥だらけでこのまま食堂へと向かわせる訳には行かない。
廊下が汚れると言う問題も有るが、何よりそんな汚い格好で食堂に入ってみろ?主とも言えるおばちゃんの雷が恐ろしい。
こんな所でぐずついて居る訳に行かない。
もうじき鐘が鳴るのだ。


「小平太。お前は体育委員会のメンバーを風呂に入れて来い」

「ん?それでは飯を食い損ねるかもしれんぞ!」

「俺がおばちゃんに話を付けとくよ!」

メニューは選べないが、全員分確保する様に頼んで置くから、さっさと入って来い!
パタパタと地図を持って居ない手で煽ってやれば、小平太は納得したのか助かるぞ留三郎!と一言残し直ぐ様体育委員会メンバーの元へと走り寄って行った。
しかし、何を間違えたのか?
彼はぐったりとするメンバー、三之助と四郎兵衛の首根っこを掴むや否やいけいけドンドン!とお決まりな台詞を吐き走り出してしまう。
それに慌てたのは四年、滝夜叉丸。起き上がる気配の無い一年生を抱きかかえ、後を追う背中を見送る。

まるで嵐の様だ。
相変わらずな同級生の横暴っぷりに改善出来ないものかと考える。しかし、今は委員会の後輩達にちゃんとした飯を食わせるのが優先。

「早く行かないと食堂が混み合うな」

席が埋まる前に急いで行くか!
ニカ!と笑う留三郎の言葉。それを聞いた一年生達は急いげ!と廊下を走り出した。
バタバタと騒がしく走り出した一年生に驚いたのが作兵衛、彼は廊下を走るな!なんて言い追い掛けるが、きっと自身も走って居る事には気付いちゃ居ないのだろう。


三年生とは言えやはりまだまだ下級生。
無邪気な後輩達の姿に苦笑を浮かべた留三郎が、一歩前へ踏み出した時だった……。

ふと、廊下を捉えていた視界が天井へと向けられる。
一枚一枚ハメられた天井板だが、その中の一つだけが少しズレて居るのを見つけた。ズレた先は暗い暗い空洞が広がって居るが、其処が上級生達がよく使う天井裏通路の一部分だと知っている留三郎にしてみれば何ら問題は無い。

「(亮の奴、此処を使ったのか……)」

蓄積しているだろう埃の中に、人差し指と思われる後が僅かに残って居る。いつの間に登って行ったのやら。
何故一言も言わずに消えたのか?理由は定かでは無いがきっと、考えての行動に違いない。先ほど夕食もあると言ったばかり、もしかしたら同じ五年生達と食堂へ行っているやも知れない。
食堂でまた会うだろう。理由はその時にでも聞くさ。


丸めていた地図をしっかりと折り畳み、懐へと仕舞い込んだ彼は足音が遠ざりつつ有る下級生達の後を追った。

















110525

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