謳えない鹿3 | ナノ



「亮はまだ委員会に所属して居ないよな」


委員会。

その言葉にピクリと亮の指先が揺れた。それに気が付いたのは喜三太で、彼ははにゃ?と首を傾げ亮を見上げる。
それで亮は何も無かった様に口元に笑みを浮かべては唇が動く。


『そうですね』

「だったら、今から俺達の委員会に見学に来ないか?」

委員会が決まって居ないと言う事は、どこに入るか迷って居るんだろ?
だったら、先ずは俺達の委員会を見学して行けば良い。

どうだ?


しゃがみこんではニッと笑う先輩に、亮は厚い前髪の向こうでパチリと瞬きをする。

委員会?

委員会見学?

僕が?


一瞬にして浮かんだのは委員会活動を楽しみとする忍たま達の声や表情。久々の委員会だと張り切る様子から、委員会活動は忍たま達の楽しみの一つなのだと理解できる。
しかし、と、その思いよりも上に重なるのはこの学園にくる前に、自身と言葉を交わした前の学園長の言葉だった。


『(しかし、言い付けが……)』
どうしよう。
そんな台詞に亮自身がハッとし、何を自分はと内心にて舌打ちした時である。
いきなりグンと引っ張られた亮の目の前には、自身の左手を取り立ち上がらせる六年生の先輩。
チラリと見えたのは左手首に巻かれる牡丹色の紐。視界の隅にて僅かに捉えながら、尻餅着いていた体制から亮は立ち上がらせて貰った。


「部屋に戻ってもやる事が無いのなら、見学に来て見ろ。一年生坊主共もそれを望んでいるみたいだしな?」


感じたのはキラキラとした視線。
眩しいと抱いた亮の視線が緩やかに下された先には、まるで主人に遊びをせがむ子犬達の様な色を写す瞳。

そんな眼で見られてしまった亮も亮で、断ろうにも断りきれない。しかし、ふと浮かび上がった。
学園長はああ言ったが、「見学」迄は禁止して居なかった筈。先輩方の元から去る前に告げられた学園長の言葉は、今も尚、亮の中でしっかりと刻まれている。

勿論、それが一体何なのかを知らない3人はまだかまだかと、亮の返事を待ち唇を閉ざす。

伏せていた亮の顔が僅かに上がり、ゆっくりと言葉が刻まれる寸前で再び体に新たな衝撃が走った。
驚いてしまった亮は、うっわ!と声を上げるもまるで、そんな事なんて関係ないと言う位に高らかな声で塗りつぶされる。


「亮先輩!委員会活動は時間が無いんです!行きますよ!」

『まっ…待って下さい山村さんっ!』

「先輩!ほらほら早く!!」


痺れでも切らしたのかとうとう一年生2人が、強引に亮の手や制服の袖を掴んでは引っ張り出したのだ。
下級生に甘いのか、これと言える抵抗を体では示さずに、言葉だけで慌てる亮に六年生はクスリと口元が綻んだ。


「よし!お前達!亮を俺達の委員会まで連行だ!!」

「「はーい!!」」

『うっええ?!』


困惑した足取りで廊下をふらつく亮とそれを引っ張る一年生二人。
まさか、一年生二人を迎えに言った途中で彼と遭遇する事が出来たこの件で、何かと上機嫌な六年生は止めようとはしない。
むしろ、暇であろうならば、見学と称して可愛い委員メンバー達とも、何かと交流はさせたいものだ。何故そう言った事を思ったかなどと言う理由は分からない。

未だに謎めいている飛び級した五年生に、個人的に興味が沸いていた為か?
まぁ、どちらにしよ話す場面を設けない限りは亮を知る事は出来ない。



散らかって居た何かがふと、彼の視界へと映し出される。何枚も散乱した用紙と何冊かの本。
表紙からしてこれは亮が持っていたものだと悟り、きっと一年生が亮に飛び付いた拍子に散らばったのだろう。
角を曲がり、先輩早く!!と響き渡る後輩の声に彼、食満留三郎は今行く!と返事を返し、亮の私物と思われるそれらを回収しその場から離れた。




















110324

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