謳えない鹿3 | ナノ



『尾浜さんはどうして此方に?』

しかも、天井裏から……。と問う亮に彼はすっかり忘れていたのか、へ?と少し抜けた声を上げたが先ほど自身がしていた行動を思い出すなりあっちにね…。と先の廊下へと指を指したのだった。


「俺、学級委員会の委員でね。後輩を向かいに行く途中だったんだよ」


丁度授業を終えた勘右衛門の耳に届いた急な委員会活動。そのまま学園内の廊下を使って向かった所で時間が掛かり、急に行う事に成った委員会活動を知らない後輩を向かいに行く事が出来なくなる。

其処で此処に長く在学している彼は上級生しか知らない近道を伝い、つい先ほど天井裏を通っていた最中。と言う訳だ。
その途中で何故か同学年の五年生、亮が荷物を持って歩く姿を見かけてしまえば気になるのは当たり前な話。
場所も場所で、こんな所に用がある生徒なんて限られている。しかも、それが上級生ならば尚更よ。

止まっていた2人の歩みは、勘右衛門の緩やかな一歩により始まった。
彼と向かう先がどうやら同じらしく、亮が学級委員の後輩…と小さく呟けば、勘右衛門がそう。と返すように頷いた。


「一年生に2人居てね。1人は校庭にいるらしいから、そっちには三郎が向かいに行ってるんだ」

『鉢屋さんも学級委員会の方でしたか…』

「そう。しかも、学級委員会学級委員長代理」

『代理?委員長では無く?』

「うん、俺達の委員会には六年生が居なくてね、上級生である俺達五年生が代理を勤めているんだ。
兵助は火薬委員長代理、八も生物委員長代理。雷蔵の居る図書委員会には中在家先輩が居るから普通の委員」

彼らが委員会に所属して居る事は聞いていた。しかし、まさか委員長代理だとは思わなかった亮は感心の声を上げるしか無い。
委員会にはいくつもの種類があり、それらの流れを一通りでは有るが数馬から軽く聞いていた。昼休みに行う委員会もあれば、そうでは無い時間帯にも活動する委員会はある。

そして、今の時間帯に活動するのがどうやら学級委員会らしい。


「でも、学級委員会って学園長の雑用ばかりさせられるんだ」

『雑用?それが委員会活動ですか?』

「驚いたでしょ?でも、俺達学級委員会がいないと、学園内のイベント進行や流れがぐちゃぐちゃに成っちゃうからさ」

意外と気苦労が耐えない委員会だよ。

やれやれと肩を落として苦笑する勘右衛門に釣られ亮も笑う。だが、其処ではたりと勘右衛門は気が付いた。
亮がこの学園に編入してきて、しばらくは経っている。同時にそろそろ亮へと委員会からの勧誘が来て居ても可笑しくは無い。しかし、それらしい話を今まで一度たりとも聞いた事が無い。
そう。不思議な位に。

学園内には様々な委員会が存在すると同時に委員不足であるのは確かだ。実際、長期の潜伏実習から戻ってきた尾浜が委員会に所属しようとした時には大変な騒ぎが起きた。やれ用具委員会やれ体育委員会やれ会計委員会等、様々な委員会から勧誘が来た。
騒ぎが起きない訳ないのがこの学園だ。
一騒動起こした後に勘右衛門がはっきりと学級委員会所属と言い切ったその瞬間、慌ただしい委員会騒動は幕を閉じたのだった。

今回もそう言った事が起きるのかと不安に成った勘右衛門は、亮の顔を下から覗き込めば相変わらず素顔は見えないものの少し驚いて居るのが分かった。




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