謳えない鹿3 | ナノ



「読めるか?亮」


背筋伸ばし行儀良く座る薄桜色へと再度問う。
緩やかな笑みを浮かべたまま座る亮ではあるものの、動作らしきモノは全く無い。

だが、その素顔の半分を隠す前髪の向こう側ではスルリと双眼が線を描いた。



『よく覚えいましたね』


そんな言葉に考えていた雷蔵と八左ヱ門へ「はい?」と疑問符を浮かばせた。だがそれと共に三郎はやっぱりか。と頭を小さく頭を掻いたのだった。


「可笑しいとは思って居たさ。だが、振り返ってみればあいつの言葉が答えそのものだとわかった」


開いていた忍たまの友を閉じ、そのまま雷蔵へと返して見せれば彼は戸惑いながら長机の下へと物を戻す。

しかし、一人だけぽかんと口を開けてはパシパシと瞬きする友人の姿が視界へと入り込めば、三郎はプッと口を押さえて笑ってしまうしか無かった。


「八お前!何だその間抜け面は!」

「なっ?!何だと!!こっちはな訳が分かんなくて混乱してるんだぞ!!」

「それにしたってはその顔は無いって!」



肩を震わせ今にも吠えそうな八左ヱ門を抑えながら雷蔵が亮へとどういう事?と問い掛ければ亮は苦笑するしか無かった。



「以前、皆で食堂で朝食を食べていた時が有っただろ?」


紡いだのは三郎。
彼の言う皆でそして食堂を示す辺りの日を思い出い出せば、数多く存在する食堂の記憶の中から現れたのに八左ヱ門はあれがどうした?と唇を尖らせて言葉を返した。


「あの時、勉強してるかって話しをした時、確か八が勉強してないと逆ギレしたよな」

「そんな詳しい事を!!」

「その時に三年の神崎左門が来た」


覚えて居るか?


三郎の言葉に八左ヱ門は一旦詰まり、グググっと言葉を押し込めば雷蔵があ!と少し高い声を挙げた。
そしてすぐさま亮へと視線を向け、三郎の言っている言葉と今回の亮の補習授業の件が全て一致したようだ。


「亮君、本当に?」

『まぁ、そうですね』

「でも暗号文は解読出来て居たよね?」

『暗号文は暗号文なりの文字列で作られて居ます。平仮名の様に簡単に読み解く事は出来ないですよ』


そんな会話を交わしている亮と雷蔵の姿に、更に分からないと言った顔付きで八左ヱ門は混乱する。
その姿にまだ分からないのかよ。と首を振りながら三郎はため息をまた付いてやった。


「八思い出してみろ。神崎の奴は、あの時亮へ何て言ったか?」

「あの時?」


腕を組みうんうんと考え出せば、もやもやとした記憶が脳内へと鮮明に描かれていくのがわかった。
確か勉強して居ないと自身が白状し、三郎が皆で勉強会を行おうと提案其処で何故か亮が戸惑いだして……
そんな時に亮限定へとかけられた明るい声。其処に居たのは三年生の中で一番背が低い学園切っての方向音痴。
何故か自身たちを先輩方のひとまとめで済まして、それに文句を垂らしながら………






「亮先輩、また勉強会しませんか?」


「平仮名の読み方、今度は………」














……………。

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