謳えない鹿3 | ナノ



雷蔵がおもむろに取り出したのは忍たまの友。
何が始まるのかと覗き込んだ三郎と八左ヱ門、そして疑問符を浮かべる亮の目の前で頁を捲っていた雷蔵がある頁で指を止めた。


「これ、分かる?」


雷蔵が示した其処はある暗号化された文章であり、一見それはただのぐしゃぐしゃに混ぜ合わせた文字達でしかない。
しかし亮は数回程瞬きした後に『此より北東、敵勢力加勢の予想有り』と何食わぬ顔ですらりと答えた。
隣に座る八左ヱ門は目を丸くしては驚き、向かいに居る三郎は眉間に皺を寄せる。
言わずもがな、正解である。


「うーん、じゃあ…こっちは?」


そんな彼等を気にする事なく、雷蔵が新たに示した暗号文も時間をかける事なくスラリと答えてしまった亮。
其処で雷蔵が腕を組み考え込んでしまった。



「暗号文を解読出来るのなら、他の問題なんて簡単な筈なのにな……」

「確かにな」



つぶやく様に告げた雷蔵の言葉に三郎が小さく返した。
実際、この二人はテスト用紙に記載されていた暗号問題を解いては居ないのだ。
暗号文を解くには時間も掛かるだけではなく、解いた後の文字をちゃんとした文字へと並び替えなければならない。
それも一文字たりとも間違えては逆にマイナスの点数を付けられ兼ねない。
そんな難しい問題に手をつける暇があるのならば、飛ばした先の問題を解き一点でも稼いだ方が得策。と言う事なのだ。
そして、その難しい問題を解いて起きながらの点数は、やはり可笑しいとしか言えない。

うーん、と悩み始めた雷蔵。
逸れを眺めていた三郎だったが、ふと、ある事を思い出した彼は雷蔵が出していた忍たまの友を捲る。
パラパラと音を鳴らした逸れを、不思議そうに覗き込むも三郎は気にせずそのまま捲り続ける。

そして、ふと、とある頁へとさしかかった所で止まり、その頁が忍たまの友のはじめの頁だと気付いた八左ヱ門が眉を潜めた。



「亮、これ分かるか」


そんな八左ヱ門を無視した三郎が指差した其処へ、厚い前髪越しに亮の視線が注がれた。
だが、亮が言葉を発する直前で八左ヱ門が不満な声を上げる。


「三郎、お前馬鹿にして居るのか」「何で八が怒るんだ」

「俺じゃなくても怒るだろ普通!!」


バンと音を立てた八左ヱ門だったが、賑やかな室内に響き渡る事は無くその場だけに虚しく収まる。


「私は亮に問題を出して居るのだ。八には関係ないだろ」

「関係ないとかそう言うものじゃない。何だってこんな頁を開いたのかと聞いているんだ」


三郎が開いたその頁。
其処は一年の忍たまの友から六年の忍たまの友全てに記載されているものだった。
初心を忘るべからず。
頭にそう書かれているそれを五年生間この忍術学園に在学している彼等からすれば見飽きたなんて物ではなかった。
もはや、此処まで普通載せるか?と思えてしまう位だ。

彼等の年齢だけでは無く忍たま一年生と成ればこう言った平仮名の文字なんて、苦労する事無く読み解いてしまうのば普通だ。


何せそれが『あいうえお』と言う。ありきたり過ぎた文字列なのだから尚更八左ヱ門の勘に触ったのだろう。

だが、それでもコンと指を指し続けていた三郎が亮へと視線を戻したのだった。



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