謳えない鹿3 | ナノ



其処に示されていた点数。

勿論、馬鹿な!と現実を拒絶するかの様に八左ヱ門が目を擦る。
しかも両目を両手でしっかりと。

未だに2人の周りは賑やかなままで、茫然と立ち尽くす亮と目を擦り続ける八左ヱ門の存在を気に留める様子は無い。各自自身の出された点数に浮かれたり沈んだりと大忙しだからだ。

そんな中ハッと現実へと戻ってきたのは八左ヱ門でも無い亮本人だった。
亮は少しだけ身を乗り出し、五年生の中でも一番の長身を生かし出された紙を再び凝視する。
視界の半分以上を閉ざす前髪を僅かにずらせば、その向こうは少しだけクリアに成り代わる。
瞬き数回。
それでもやはり目の前の結果は姿形変わる事は無く、少しだけその姿を表した亮の瞳へと映り込んだ。

暫く間を空けた亮だが直ぐにため息をつけば、未だに隣で目を擦っていた八左ヱ門が顔を上げるのだ。
勿論その目元は赤く、擦りすぎたものによる結果なのは明らかである。



『結果が全てですよ』



亮より少し背丈の低い八左ヱ門へと言う。
フフ、と笑みを浮かべるその口元は相変わらずの亮らしさだが、どこかぎこちないものを感じ取った八左ヱ門はガシリと亮の腕を取ったのだった。





「亮!先生の所へ向かうぞ!」

『はい?』

「納得いかない!!」




その数字になのだろう。
八左ヱ門は亮の手を引き、先生が居るかであろう部屋へと向かう気だった。
しかし、もうそろそろすれば授業の開始を告げる鐘がなる。
教室へと向かってくる先生もきっとその準備をしているのだから、逸れを邪魔してはいけない。
亮はすぐさまそう判断しては自身を引っ張る彼の腕を、慌てて逆に引き返して見せたのだった。


「亮!」

『竹谷さん落ち着いて下さい』

身長から見えた体格差だろうか?未だにグイグイと先生の元へと行きたがる彼を、何とか亮は留める。
そんな亮の足元からは、ミシリと床が軋む音が生まれている事に八左ヱ門は気付いていない。


「お前、あんな点数で良いのかよ?!」


まるで今にも噛みつかんと言う位の様子に、亮は厚い前髪の向こう側でピクリと眉が動く。
しかし、逸れを知らない八左ヱ門にごまかす様に変わらない笑みを浮かべて見せたら、彼は眉間に皺を寄せた。


『構いませんよ。あの点数が今の僕自身の成績結果と言う事です。それに対して僕に不満なんて有りません』



亮独特が浮かべるその笑みは、やはり誰が見ても心が落ち着くものを感じさせる。
笑みもそうだが、同時に柔らかい何かの雰囲気が亮の周辺を静かに包み込むのだ。
それがいつもの亮らしさのものであると同時に、全く動じずそして平然とする様子の薄桜色の存在に意味分からず八左ヱ門が腹を立てた。

今回のテストがどれほどに大切なのか。
きっとその重要性を知らない亮だからこそ、八左ヱ門が焦るしかないのだ。

この単位により、自身等より下の下級生の中には学園を辞めざる終えなくなったものが居たに違いない。
年間で加算される授業の単位にテスト点数。そして実技、実践の結果を総合した中で一番に評価するのはこう言った様な滅多に行われないテスト。
どれだけ実践、実技を上手くこなしたと言えどそれに+(プラス)される筆記テストは何より重視される。

何せそのテスト内容が体を動かす。と言うものより、幅広い知識により救われる命の中に、戦略や戦法の2種類が含まれているからだ。
暗号化された文章、各種忍具の有効活用、毒薬の調合や抜き方、人体の急所、対話術から得る相手の情報。

何百と数え切れない忍術の知識を、現時点でどれだけ理解し取得しているのか?
逸れを一番に見つけやすいのがテストと言う方法。
体が丈夫で身体能力がいくら高いと言えど、逸れを最大限に有効利用する知識が無ければ宝の持ち腐れ。
上級生となれば結果は目に見え、家の事情で。なんてありきたりな理由で退学させる。勿論これを知るのは四年生からの上級生達であると言う話。

亮が三年生だったと言え、今此処に居る存在は五年生の摩利支天亮次ノ介。
きっかり五年生な亮だ。

そして、今回のこの点数では言わずもがな。な話。

つまりは、編入して暫く経った亮でも、単位の足りなさそしてテストの点数により退学させざる終えなくなる。
と言うのが、八左ヱ門が焦る要因であったのだ。




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