外部短編 | ナノ




[16歳~]



ソラがまた居なくなった。

画面越しに騒ぎ立てるそれはインターネット世界でよく見られる緑色のプログラム。ウサギをモチーフにしたそのデザインと抜けた顔のバランスにより、安心し任せられると抱くものの騒ぎ立てたそれからは全く感じられない。
デザインを無視した三日月型の鋭い目つきに、ボディの無い頭だけの存在。本来ならばスクラップとして処分されるそれは、器用に転がってはさっさと探せうすのろ!とプログラムでは有り得ない暴言を吐く。
傍らに控えていた私のナビがピクリと動いたが、私からの命令が無いためか動くことはしない。が、足元で騒ぐそれへと向ける視線と目つきには厳しい何かを感じる。今にも切り捨てる勢い良いだ。

いつ頃からソラが居なくなっと問えば、つい先ほどだと曖昧な答えが返ってくる。先ほどまでこの頭しかないプログラムとソラと呼ばれた人物は、カーネルの監視下の元与えられたらDVDを大人しく見ていたらしい。
が、カーネルとプログラムが目を離した隙にソラが姿を眩ませたと言う。ワープホールを出した形跡は無い。
しかし、近場には此方側にあるPC内部のインターネット回線を開いた形跡が残っている。つまり、ソラは現実世界で使用しているインターネット端末を利用したと言う事。

何が言いたいか?



「……………」



外へと出る可能性をも考えたがソラは、外へと出る手段を知らない。
ではどこか?
与えられた広い部屋の数々。その中の一つにソラが居ることは分かっていた。どこの部屋に居るのかもなんとなくではあるがわかってる。

自動で開いた扉。
見慣れた風景が瞳へと映し出されるかと思えば、床に広がる衣類や私物の数々に今朝利用した部屋の風景を思い出す。
二歩下がり部屋の外へ。見上げ先には与えられた自室である事を告げるプレート。
ああ、自分の部屋である。
しかしでる前の部屋はきれいに整頓されていたはずだ。ここまで物を………

グニ。

何かを踏みつけた。
同時に言葉には言い表せない悲鳴があがる。猫の様に立ち上がったそれはすぐさま引っ込み、何かが私の足を叩いた。



「…………ソラ」


まるで何をすると言わんばかりにひたすら叩く白い腕。しかしクローゼットにしまっていた私の洋服を、頭から何重にも被る彼女ソラの姿に申し訳ないと言う気持ちは一切湧き上がらない。

ひとしきり叩き終えたソラは私が踏みつけたそれ、コードを大事そうに持ち撫でる姿が瞳に映り込む。

踏みつけたコード。これはソラの右足の一部。右足の太ももを突き抜けて垂れるコード。一見刺さっているようにも見えるが、これは彼女の体の一部。

座りながらみつける彼女。無断でネットワークから現実世界へとやってきた為か、彼女は何も羽織って居なかった。
ネットワーク内部ではデータとして羽織っていたあのボロボロなコートだが、液晶画面を介して現実世界に来るとネットワーク上にしか存在しないデータは消滅。何も着込まないソラが此方へと現れる。
現実世界へと来るときは必ず私に連絡を入れるようにと、あれほど言い聞かせた筈なのだが…。

同じ視線にあわせるべくしゃがみ込めば、ソラがムスッとしながら私を睨む。ソラの見た目は此方で言う中学生位の年齢だが、知能が発達していないらしく、幼児のように振る舞う。「ソラ、何故私の部屋にいる」

『…………ぅ、あ?』


私の問いかけにソラはまた首を傾げた。ソラに言葉を伝えるのは何かと難しい。保護者紛いなあの口悪いプログラムが間を挟んで、通訳をする。此方の言葉を覚えさせる為に言葉の勉強をしているが、やはり伝わらない。


「ソラ、なぜ、いる?」

ソラへと指を指し次に床を小さく叩く。しかしソラには伝わらない。だが、何を思ったのか彼女は床に散乱する洋服を一つ掴み取ってはいきなり私の頭に被せた。
もう一枚、また一枚と被せていくその腕を止める。こいつ何をしたいのだ?

その時である。自室にあるPCが勝手に起動を始める。起動したPCはモニターの電源が入り、同時に映し出されたのは自身のナビの姿。

《バレル大佐》

「カーネルか」

施設内のネットワークを通じて自室のPCへと来たらしい。
クローゼットに閉まっていた私の洋服を何重も着るソラに、カーネルは何かいいたげな視線を送る。が、その視線は静かに下へとスライドし、居たぞ。と一声かけた。

《ソラか!体は壊れてないか?!》

人間ならば、怪我はないかと問うそのセリフは、プログラムデータらしいく壊れたと称する。データの破損は見当たらないと告げれば、安堵した深いため息が生まれた。
が、そんな事よりもだ………


「プログラム、お前はこれの原因を知っているか?」

これ。つまりソラが何重にも洋服を着込んでいるこの状況を生み出した理由。
以前にも、似た騒動をやらかしているソラ。原因は何かしらある。


《あー?多分あれじゃねか?カーネルさんよ》


ニヤニヤと口元に笑みを浮かべたプログラムは、器用に床で転がりながら頭上のカーネルを見上げる。当のカーネルはプログラムと目を合わせないように、明後日の方角を見つめていた。


「カーネル」

《申し訳有りませんバレル大佐》

自身の失態です。と彼は告げた。

ここ最近ソラは現実世界に酷く興味を示している。建物、車、鳥、海、空。ネットワーク世界には無い此方の世界にしかないそれを学ぶ為に、様々な映像を見ている。
時には映画、時にはテレビのニュースと大忙し。
その中でつい最近ソラが興味を示す番組があるとカーネルは答えた。日中放送されている特集番組、その企画内でファッション関係の話になったらしい。
これを詳しく知りたい。
ネット世界にいる同士にしかわからない会話で、ソラがカーネルに詳しい映像を求め彼は去年ニホンで開催されたファッションショーの映像を見せた。

理解した。

掴んでいた手を離せば、足元に広がるワイシャツを私の頭へとまた一枚積み上げる。やっと満足したのかソラは聞き慣れない電子音を鳴らす。画面越しに完成だとさ。とプログラムの声が呟いた。


「ソラ、これではただの重ね着になるぞ」

『…………?』



ずしりとののしかかる衣類が重い。今にも崩れそうな洋服はゆっくりゆっくりとその角度を変えてゆく。


『………』


未だに言葉は通じない。
しかし、私に向けられるその瞳には、何かを期待する輝きを含んでいる。頭が痛いと思うのはきっと気のせいだろう。

癖っ毛が特長の髪を撫でてやった。






「お似合いだ。ソラ」






意味を知ってか知らずか、ソラは楽しそうに笑みを浮かべた。

121010


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