毎日が任務で走り回っている訳ではない。休日希望の書類を揃え2、3日もすれば休みなんて腐る程貰える。しかも休んでいながらもお金が入る公休になっている為、沢山稼がなければならないと言う思いは自然となくなる。
各シップでのお金が入るシステムはそれぞれで、一回の任務につきいくらや歩数性だったりと様々だ。だが、アークスと言う職についている限り衣食住には困らない程の資金が支給されるのだ。
アークスとしての素質ある存在を一つとして欠けさせる訳に行かないと言う思いか、それを知るアークスはいないだろう。
アークスが衣食住を共にする数あるシップの中、更に詳しい所まで言えばゲートエリアから2つ目のテレポーター先。
俗に言うショッピングエリアのソファーに彼女はいた。
年齢は二十歳を過ぎた辺り。アークス専用の戦闘スーツの一つであるサウザンドリム。種類は陽を着用。
鎖骨から腕にかけて彫られたタトゥー。両耳につける黒のブリッツガーダーに支給されたサイバーグラス。白の頭髪を抜かせば全身黒ずくめのアークスだが、それほど悪目立ちするものでもない。中には季節柄に合わせて新しいスーツを買い込みオリジナルのデザインへと手がけるアークスも居るので、それに比べればまだマシと言えよう。
さて、ショッピングエリアのソファーに腰掛けている彼女も正真正銘のアークスの一員、こんな所でゆっくり座ってないで上から与えられた任務をこなす為にゲートエリアに行かなければならないが……動く気配がしない。
エントランスホールを見渡せる二階の展望台で、しゃがみ込み、ただ、ぼう……、と巨大スクリーンを見つめる姿はどこか哀愁漂うものを感じる。
普段の彼女であれば任務へと向かっているのだが、動く様子がない。
アークスへと支給された携帯端末を開けば、今受ける事が出来る任務一覧が表示される。
その中の一つを選び任務へと行こうにも、パネルにはすぐさまエラー表示。ソラは肩を落とす。
「おや?こんな所に居るとは珍しいですね」
今の時間帯は任務へ向かっている筈では?
聞き慣れたその声にソラは鳥肌がたつ。すぐさま立ち上がりテレポーターへと向かおうとするが、遮るように立ちはだかる壁にぶつかりバランスを崩す。
「大丈夫ですか?」
倒れそうになる体を支える手をソラは振り払う。2歩下がり触るなと相手に投げるも、壁となった彼はおやおやと小さく笑う。
「気分が悪いのでしたら、メディカルセンターで看て貰った方が宜しいのでは」
『煩い。私は今から任務だ。一々口をーー』
「任務?其方の端末にはエラー表示がされているようですが?」
開いたままのエラー画面を見られてしまったのか、目の前でクスクス笑う長身のニューマンにソラのこめかみに青筋がたつ。
平均的な男性ニューマンよりも背が高く、女性を惹き寄せる甘いマスクに紳士的な物腰。前線にでる様な戦闘は苦手な為か、テクターと言うクラスに所属している。しかし、サブクラスがレンジャーであり、彼がガンスラッシュを使う場面を見る者は少ない。
六芒均衡の三を勤める精鋭アークスの一人、カスラが其処にいた。
六芒均衡となれば毎日が多忙で、あちらこちらへと飛び回っている筈だ。だが、目の前の男からはそう言った雰囲気は全く感じられず、むしろくつろいでいるに近い何かを感じる。
嫌な予感がする。
なんであんたがここにいる。
と言っているかのようなソラの視線にカスラは肩を竦めた。
「休暇を頂いたんですよ。いくら六芒均衡でも休まずに走り回る事なんて出来ませんから」
柔らかい口調ににっこりと笑みを浮かべるその表情に、ときめく女性は数知れず。もしこれが意図的なものであれば彼はどこまで腹が黒いのだろうか。
しかし、ソラに通じる事は無い。むしろその真逆で、その笑顔に更なる鳥肌が立っている事に彼は気付いていないのだろうか?
眉を寄せ、第三者が見ても分かる位の不機嫌オーラをソラは醸し出す。
ニューマンである彼も気付いて居ても可笑しくない、あからさまな空気だがまるで楽しんでいるかの様に再び笑みを零す。
「ソラさんは此処でなにを?」
『今から任務だと言ってるだろ』
「その任務に行き過ぎたばかりに、強制休暇にされたと聞きましたよ」
『ソースが無い』
「管理官のコフィーさん」
コフィィィィィィ!
最近になってデレが見えてきたクエストカウンターを陣取る管理官へ怒りの声を上げた。勿論心の中でだ。
頭を抱え更に眉間にしわを寄せたヒューマンの彼女に、カスラは言葉をかける。
「お互い休暇とは奇遇ですね」
『やめろ。あんたと同じだなんて思いたくない』
「違う言い方が良かったですか…お揃いなんてどうです?」
『その長い耳は飾りの様だな。歯を食いしばれよ、私がむしり取ってやる』
湧き出した殺気、カツリと一歩踏み出したソラにカスラは軽く手を上げ、冗談ですよ。と彼女を落ち着かせ様とするがカスラが目の前に存在する限り、この殺気はおさまる事は無いだろう。
「ソラさん私は喧嘩をするために、わざわざ声をかけにきた訳では有りませんよ」
『だろうな。わざわざコフィーに私が休みになっている事を聞いたぐらいだからな。休暇後の任務依頼か?クロトの依頼報酬金額10倍であんたと組まない内容であれば受けなくも無いが?』
「彼の報酬金額10倍以上で貴女とパーティーを組めるならば喜んで依頼したい所ですよ」
『……………』
「お金には困っていない立場なのでーー、そのツインマシンガンをしまって下さい。残念ながら任務の依頼では有りませんよ。そう、残念ながら」
『余計なお喋りが得意らしいな。その口よほど縫合されたいと見える』
「ソラさん、私と隣のシップで買い物しませんか?」
一触即発。ツインマシンガンを取り出していたソラだが、カスラのその言葉に彼女は、は?と愛用の武器を落としそうになる。
コイツ、いまなんて言った?
私とショッピング?
私はコイツを嫌っていて、態度も見て分かる位で本人もそれに気付いている筈で…
思いもしなかったそれにソラは混乱する。
『え、…は?………え?』
「隣のシップに新しいショッピングエリアが出来たんですよ。なんでも過去に作られたアークス専用のスーツを若手のデザイナー達が、アレンジしたお店が同時にオープン。女性物に男性物数多く結構人気らしくーー」
『いや、ちょっとまてなんでーー』
「シップ移動の通行料なら私の方で出しますが?」
『そうじゃない。なんで私があんたと行かなきゃならない!』
「ソラさん任務に行き過ぎですよ。少しは娯楽に対する情報をーー」
『好感度が50下がった』
「男女のカップルで行くと商品全品半額になるらしいです」
『なにその私を殺しに来た要件』
「まさか。いつもいつも、任務詰めの貴女の為にストレス発散のお手伝いをしたくーー」
『だからってなんで買い物になる』
「おや?女性は買い物が好きだと聞きましたよ。異性と共に店を周り服や小物を買い回る事でストレス発散になると」
殺気丸出しのソラだったが、たたみかけるかの様なカスラの雰囲気に圧倒される。怒りで満ちていたその表情は、徐々に青くなり口端が引きつっていた。
「ソラさんと私は偶然にも休暇で、隙していた所。そして隣のシップでは男女カップルの割引セールを行っている」
こんな偶然、そうそう有るものでは有りません。
ですから、ソラさん。
「今日1日、私と共に過ごしませんか?」
爆音が鳴り響いた。
とあるショッピングエリアの二階。
エントランスホールを見下ろす事の出来る展望台で、白い白煙が上へ上へと登る。
白煙が立ち込めるそれを眺めるアークスが一人。大きな茶色の樽にクルクル回る弾丸は黄色のラッピー。サブ武器ランチャー片手に女性ヒューマンは、肩を上下に揺らし大声で吐き捨てた。
『気持ち悪いわボゲェ!!!』
これほどな最悪な休暇はきっと無いだろう。
ランチャーをしまい込んだソラはテレポーターへと入り、自身のマイルームへと移動していった。
テレポーターから人の気配が消えたと同時に、ボロボロなアークスが一人白煙の中から現れる。煙を吸ってしまったのか、むせた彼はテレポーターを見てやはり女性は難しいですね。と小さく零した。
奇遇とかやめて下さい
了
140107
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