一万ヒット記念小説 | ナノ



『委員会活動』

その響きはとてもよく、またどこの委員会に所属していない名前からすれば、一体どう言った活動をするのかと興味をそそられる。
委員会によって活動内容が異なるのは、委員会名を聞いた瞬間に理解できるも如何(いかん)せん前の学園ではそれらしきものが無いが為に全く持って想像が付かない。
とりあえず、今の所だいたいでは有るが分かっているものと言えば、保健委員会と図書委員会そして用具委員会の3つ位。因みに、何故用具委員会の名前が上がったのかと言うと郊外授業を受ける際の移動中、壁に穴を開けた暴君とそれを叱り散らす武道派の先輩2人の姿を名前が捉えたのだ。そして、その横を通り過ぎる際に「この穴を誰が修理すると思ってんだ?!」「ん?用具委員会用具委員長のお前だろ?」「てめぇ!分かってんなら…」なんて怒鳴り声が周辺へと響き渡れば、まぁ、何となく理解できる。

そんな六年生のやりとりが面白く。印象深かったです。と、名前の隣に寝転がり伸びた髪の毛を弄んでいた喜八郎の耳へと届く。

委員会に入って居ない名前は委員会活動時間となると、暇で暇で仕方ない。大概は図書室から借りた本を読んでいるらしいが、どうやら読み終えてしまったらしい。
さて、そろそろ皆さん委員会が始まる時間ですし、僕は新たな本でも借りますかな?と空を見上げた時だった。突如として後ろに引っ張られ頭部により体は支えきれず、名前はビタン!と後ろに真っ直ぐに倒れてしまった。ガン!と頭をぶつけた鈍い音が鳴るものの、それをかき消す様に倒れた先にあった直ぐ目の前にいた四年生が声を上げた。


「だったら、見に来る?」


僕の委員会活動。

目と鼻の先にいた四年生の言葉に、名前は疑問符を浮かべるしか無かった。












発令!蛸壺注意網!!



















ザン!
そんな音をたてては下から舞い上がってきた土が、地上へと顔を覗かせ地へとつく。そして今度はザクザクと音が鳴るのは、自身の足元の更なる下。
此処に来る迄の事を思い出しながら、後ろを振り返った五年生名前は何もない真っ平な世界に満足そうに口元を緩める。そしてくるりと手に持つ鋤を持ち直し静かにしゃがみこんだ。


『綾部さん、休憩しませんか?』


蛸壺の中へと注がれた声は少しだけ反響し合い、それをかき消す様に聞き慣れた声が返ってくる。
名前は膝を付き蛸壺の中へと差し出せば、相手はそれをつかみ取りゆっくりと地上へと出て来た。そして上がって来た彼は蛸壺の縁に腰掛ける名前の隣へと座る。

隣に座る名前の顔をじっと見つめる彼、綾部喜八郎は鋤を腕の中に抱いたまま下から覗き込めば薄桜色はキョトンと首を傾げた。


「名前、楽しそうにみえる」


ほら、口元。
そう言った喜八郎は泥だらけで汚れている手のまま、名前の頬を無理やり弄ればふふぇ。と何とも抜けた声が上がる。


「楽しい?委員会見学」

『ひゃのひいでふよ』


弄られながらもにっこり笑った名前に、満足した喜八郎は直ぐに手を離す。
勿論名前の頬には泥が付いてしまったのだが、本人は気にする事なく持っていた鋤を手の中に納めた。


『綾部さんは委員会活動中、いつも蛸壺を掘って居るのですか?』

「まぁ、そうだね」

「一応、危険ではない場所にでならどこでも掘って構わない。勿論、ちゃんと目印を付けてだが。と、立花先輩にも許可は貰っているからね」

立花仙蔵の真似をしながらの喜八郎の口調に、小さく笑う。
未だにどの委員会にも所属して居ない名前からすれば、今の蛸壺掘りは楽しくて仕方無かった。
委員会見学と称した蛸壺掘り。
本来名前が編入してから何ヶ月も経っている今日この日迄に、どこかの委員会に入って居ても可笑しくないのだが理由とやらで未だに名前は委員会には入って居ない。

それを思えば、喜八郎からの委員会見学の誘いは酷く嬉しいものだ。

委員会活動及び所属は禁じられて居るが、委員会活動の『見学』迄はダメだとは言われて居ない為こういった事は許可されて居る。
勿論、それなりの範囲は必要だが。

しかし、今となっては作法委員会見学。ではなく、作法委員会活動『体験』。と変わって居た。
初め作法委員会見学と称したものだったが、実際に体験してみての『見学』と名を変えたのは誰でも無い喜八郎自身。

作法委員会活動を見学つまり、見ているだけだと思っていた名前はいきなり鋤を渡された時は酷く慌てて居たが「実際にやるのは悪くない。つまり、体験だよ」と言い張った喜八郎に流されいつの間にか作法委員会活動体験となり蛸壺掘りを行っていた名前だった。

名前の隣に座る喜八郎は癖なのか、彼の伸びた髪の毛をその掌に納める。そして、自身が掘った蛸壺、名をターコちゃん3号をまじまじと眺める名前。

話しを聞けば蛸壺は授業の一つで習い実際に掘った事はあるらしいが、『綾部さんの様に綺麗には掘れないんです』と言う。
しかし、名前が掘って居たであろう蛸壺へと視線を這わせれば、其処には穴と言える空間所か此処に来た時と変わらない景色が其処に広がる。

きっと、掘った蛸壺をバレない様にカモフラージュしたのだろう。
よく目を凝らさないと見えない目印まであるのがその結果だ。


『綾部さん』

「ん?」

見渡して景色から隣に座る名前へと視線を戻せば、喜八郎が掘った蛸壺の壁際を細い指で触れる姿が瞳に写りだす。
目元は相変わらず前髪で隠れているものの、その口元や纏う雰囲気はどこか明るく楽しそうだ。
隣に居る彼ですら嬉しくなる。


『やっぱり、こう言ったものは自身でコツをつかむものですか?』

「それもあるけど、立花先輩がアドバイスをくれるんだよ」

『立花先輩が、ですか?』


ほら、あの人。作法委員長だから。
喜八郎がそう言うと、成る程。委員長としての仕事なんですね。と頷くも、それに対し喜八郎は何も言わなかった。

ただ、「委員会中もね」としか言わない。
それでも作法委員会見学(体験)が出来ただけでも、楽しいです。と笑う名前に、それは良かった。と釣られて笑う喜八郎。


「名前、泥付いてる」


伸ばされたその手にも泥が付いていたが、彼は構う事なくそのまま触れた。
それは白い色合いをした名前の首であり、キョトンとする本人では有ったがほら、綾部さんも。


『此処に付いてますよ』

名前から伸びた手は喜八郎の額に付いてる泥を払う。
蛸壺の縁に座り込む2人の様子はほのぼのしているものの、現れた第三者からすればビックリするものでしか無い。

だが、土を踏みしめ、其処に現れた第三者は2人の様子に驚く素振りなど見せず、ザクザクと名前と喜八郎へと歩み寄ったのだった。


「喜八郎、それに名前も居たか」


聞き慣れた声にあ。と呑気に振り返った喜八郎と同時にハッと顔を上げた名前の視線の先、其処には優雅に腕を組み此方を見下ろす六年生立花仙蔵の姿が有った。


『こ…こんにちは!立花先輩!』


自身が現れた事に明らかに嬉しそうに挨拶をした編入生に、仙蔵はこの尊敬さを隣に座る四年生に見習わせたいものだと思いながら笑顔で返事を返す。
勿論、それが気に食わない喜八郎はムッとし掴んでいた名前の髪を引っ張れば言わずもがな鈍い悲鳴が上がる。

それに呆れながら、仙蔵はやれやれとため息を小さく吐いた。



「全く、何をしているかと思えば……」


蛸壺に座り込む2人の様子。それから小さな目印が置かれている周辺に納得が行った仙蔵は、自身の眉間に手を当てる。


「喜八郎ならともなく、何故名前までもが蛸壺を掘っている?」

その問いにいち早く疑問を抱いたのは名前自身だ。


『あれ?今は委員会中。ですよね?』

「ああそうだ。だから作法委員長である私自ら作法委員の喜八郎を向かいに来たのだよ」


やはりどこか可笑しい。
名前は隣に座る喜八郎へと視線を伸ばせば、どうかした?と言わんばかりの表情で見返してくるだけだ。
いやいやまさか。
そんな思いで再び仙蔵へと向き直れば、彼はどうした?と問いかけて来た。


『立花先輩は作法委員長ですよね』

「そうだ」

『綾部さんは作法委員』

「間違いは無いな」

『活動内容は、蛸壺掘り?』


名前の台詞に仙蔵はすぐさま隣に座って居た後輩を睨めば、彼は知らぬ顔で明後日の方向へと視線を眺めて居た。


「名前、作法委員会は蛸壺掘りと言った事はしない」

『え?!』


晒されていた口元が歪み、カチンと音を立てて固まった。
体まで固まってしまったのか、名前は動く気配が無い。
仙蔵は、喜八郎…お前は……。と零すも名を呼ばれた彼はおやまぁ。と普段通りの口調で言葉を紡いだ。


「僕はちゃんと言いましたよ?「僕の」作法委員会見学って」

「名前、言っとくが喜八郎は委員会中もずっと蛸壺を掘っているんだよ」


言うなれば、僕「の」つまり喜八郎自身は委員会中にも関わらず蛸壺掘りを行っており、委員会自体の活動内容としては蛸壺掘りを行っていると言う事を示しては居ない。
もし、作法委員会での活動にて蛸壺掘りが行われているのならば、僕「の」ではなく僕「ら」となっている筈だ。
其処で喜八郎の言動を1から思い返せば、確かに作法委員会の活動は蛸壺掘りだ。とは言って居ない。

ギッギッと歯切れの悪い音を立てる様に、再び喜八郎を自身の瞳に写させた名前の口端は小さな痙攣を起こして居た。



『あ…綾部さん……』


視線がバッチリ有ったと思えた先には、にっこりと悪気の無い笑顔が名前を迎えた。



「名前、僕は1度も蛸壷掘りが委員会活動とはいってませーん」

『………確かに!!』



改めて彼の口から告げられた事の自体に名前はトドメを刺された。
日頃、言葉に気を付けているのにも関わらず、委員会見学が出来る事に浮かれてかつい見落としてしまった自分が恥ずかしくなった名前。
そして、委員会見学と称した委員会体験の名の元に生まれたのは、自身が張り切って掘ったいくつもの蛸壺の数。これを全てちゃんと埋めるとなると………。







うわぁぁ。

と頭を抱え考え出した五年生に、仙蔵が先輩をからかうな喜八郎。と注意するも彼は聞かず、「立花先輩。今回のターコちゃん3号はどうですか?」と流したのだった。





そんな2人に仙蔵がまた、ため息を零そうとした時だった。直ぐ近くで上がった声に自身の友人のものだと気付いた。
何事かと振り向いた先にはタイミング良く蛸壺に落ちていった六年生の姿。空へと舞い上がったのは白いトイレットペーパー、そして丸い球体。つまりバレーボール。

その瞬間、アイツはまたか…。相変わらずな不運な瞬間を眺めていた仙蔵の目の前で、同じくトイレットペーパーを抱え慌てふためいていた後輩達。三年生が先頭切って彼が落ちた蛸壺に走り寄るも、その直前で下へ落下。
下級生が彼の名を読んでは悲鳴を上げ、珍しく直ぐに出れた彼、伊作が腕を付き蛸壺から出ようとした瞬間、彼の付近に黒い影が生まれた。
何事かと見上げた先には落下してくるトイレットペーパーとバレーボール。未だに登りきれて居なかった彼は避ける事も出来ず新たな悲鳴を上げ、それらと共に再び蛸壺の中へと吸い込まれて行ったのだった。
だが、不運は其処では止まなかった。舞っていたトイレットペーパーは伊作と共に穴に落ちたものの、伊作に当たったバレーボールは見事に跳ね返り下級生めがけ跳んでいく。
そして、左近、伏木蔵、最後に乱太郎の順で当たれば、近くの蛸壺にダイブして行く様子に仙蔵は「あっちも相変わらずか」と零すしか無かった。














発令!蛸壺注意網!!

(どうだった?作法委員会見学は?)《見学と言うより、体験をして来ましたよ。竹谷さん》(やっぱり疲れたろ作法委員会は)《はい、特に用具委員長のお説教が》(は?)























100921
[back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -