一周年企画小説 | ナノ





  





「朝起きたらこうなって居た。だと?」


ピクリと動いたのは文次郎の眉。因みに右側。
その表情からは信じられないと言わんばかりの雰囲気を醸し出して居る。しかし、現実は変わらない。
現に彼の視界に写り込むある者に、文次郎は頭が痛くなる。
いや、有り得ないだろう。今までこんな事は……。

「酷いよ仙蔵!私にも抱っこさせてよ!」

「馬鹿を言うな。不運体質のお前が雅を持てばどうなるか目に見えて居るだろう」

「なぁなぁ!雅お手玉しよう!私と一緒に…」

「ふざけるな小平太!雅を飛ばす気だろ?!触るな!危なすぎる!!」


ギャイギャイと騒がしいのはいつも事だ。昨日もその前の日も同様に騒がしかったが、今日は一段と騒がしかったのだ。
何故か?
普段ならばこの騒ぎを止めるべく存在が居ないから。否、居るには居るのだが………。


「雅、雅飴っこ食べるか?」

『ひ、ひつよう。ぎゃく、ふっ!ふよう』

「呂律が上手く回らないんだな!可愛らしいな雅は!!」

年齢的に言えば五歳或いは六歳か?
自身の足で立ち上がり好奇心旺盛なこの年頃は、あっちにフラフラこっちにフラフラと見ていて危なっかしくて仕方ない。だが、幸いな事に彼の体が変化遂げながらも脳内はそのままらしい。ああ、これだけでも酷く救われた様な気持ちである。

もし、これで脳内までとなれば、暴走する友人達を止める者は誰一人として居なくなる。

六年い組、野沢 雅。

彼に襲いかかった惨劇。本人からすれば一体何だ?!と珍しく慌てふためくものだが、彼の友人はその間逆。酷く興奮し楽しそうだ。六年の付き合いである彼との日々はどれも色濃く残り、未だにその記憶一つ一つを思い出す時もある。

そう、その中で彼らの記憶に一番強く根付く思い出。雅との出会いを忘れずに居る彼らにしてみれば、その頃に酷く似る姿、形をする雅を目にした彼ら。
興奮するな。と言う方が無理だろう。
しかも、その頃よりも僅かに小さく感じる友人の姿。歳相応の体付き。そして上手く回らない呂律。
破壊力抜群だ。

そんな無自覚な破壊力を醸し出す雅は何をして居るか?
仙蔵の膝の上にちょこんと座って居る。
この頃の彼は既に長い髪の毛だったらしく、手先の器用な彼でも小さく成った己の手では結べないらしい。その為、いつも綺麗に結い慣れている仙蔵に結って貰っている。満足げに雅の髪を結う仙蔵と、ジッとして居る幼い雅。しかし、先ほどからちょっかいを出すばかりの友人達に仙蔵の雷が連続して落ちるばかり。

第一発見者と言っても可笑しくない立花仙蔵。
このメンバーの誰よりも一番に起床し、一直線に雅の元へと向かう彼の悲鳴で目覚めた友人等。
は組の補習授業も無ければろ組の委員会も無い、い組への御使いも無いこの日に皆で町に出掛けようと考えて居た計画はいつの間にかお蔵入り。
しかし、それよりも遥かに彼らの興味を引くべき現象が起きているのだ。忘れて居ても仕方ない。

約、一名を残して…。


『みっみな!きょう、まち、がいしゅっゆうつ?!』

「こんな可愛らしい雅を町に連れて行けないぞ!」

人攫いに会ってしまうだろ!!
何に対してそんなに力んで居るのか?
グッと拳に力を込めた小平太が言うと、何故か隣に座る長次が頷く。
そんな馬鹿な。と抱く雅だが、直ぐ近くから「危ないな」「危険過ぎるね」とは組の台詞。同様に文次郎も、「一理有るかも知れない」なんて言う始末だ。




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