『亮!勝手に決められると困るぞ!』
場所は空に近いと錯覚しそうな屋根の上。晴天が広がり挟む様に存在する瓦の間に2人は居た。ポカポカと怒りを露わにするのは、怒った姿を見たことの無い亮である。
その向かいには息を荒くし座り込む小平太の姿。
彼は仕方ないじゃないですか!と亮に抗議する。
「僕の体なんですよ!何勝手な事してるんですか?!」
『何をいっている!1日でも走り込みをしないだけでも、筋肉は二日分衰えてしまうんだぞ!』
「その体は僕のです!」
『…………あれ?』
すっかり忘れていたのか、亮はぽかんと口を開けては小さく首を傾げる。見れる筈もない自身の行動に、亮は何だか気持ち悪いと肩を落とす。
しかし当の本人はぬはは!と豪快に笑うだけ。
このままでは彼はまた勝手に動きまわるだろう。亮の体だと言う事を忘れ、破壊活動を取りかねない。
ならばどうする?
説得してもこの人は言うことを聞きやしない。
未だに入れ替わった体を戻す方法も見つからないまま、むやみやたらに動く事は危険過ぎる。
では、どうする?
今の自身は六年ろ組。暴君七松小平太。
彼が特に優れている身体能力は………。
『…ん?何だ亮』
無言で立ち上がった七松に、大の字に広がっていた亮が首を傾げる。
見た目は自身だが中身は先輩だ。手荒な真似はしたくないが、今の亮が出来る最善策はこれしか無い。
「七松先輩」
『おう!何だ亮!』
「少しの間眠っていて下さいませ」
『………………』
ん?
刹那。
揺らいだ気配は座り込む亮へと真っ直ぐ降りかかる。
風を切り裂くブォン!と言う悲鳴は鈍く、対象者へとぶれることなく影を降ろす。
だが、それが何なのかと気付いた亮in小平太はうがぁ?!と間の抜けた悲鳴を上げて転がる。
ガタガタと瓦の上を転がった亮は顔を上げるも、ゲッ!と顔色を変えて再び転がる。
後を追うのは黒い影、同時に瓦が砕け散る音が鳴り響いた。
瓦を壊した本人、七松小平太in亮が揺れる。
覗く目つきが酷く鋭い。
「七松先輩寝ていて下さい……」
『えええ?!何で三味線で殴ろうとするんだよ?!』
「先輩相手に大変失礼な事をしていると重々承知です。しかし、これ以上先輩の横暴を見過ごす訳には行かないんですよ。
僕の為にも………」
その為には先輩に大人しくして貰う必要が有るんですよ。
安心して下さい。
立花先輩達がきっと元に戻る方法を見つけて下さる筈ですから。
それに………
「大丈夫です。優しく殴るだけですから」
いつの間に持ってきていたのか?
持ち上げられた三味線で砕けた瓦を振り払えば、大きさが異なる破片がガラガラと地上へと落ちてゆく。
大きく広がる瓦のひび割れに、小平太はゴクリと喉を鳴らして慌てて立ち上がる。
『だ…大丈夫だ!殴らなくても私は静かに待っていて………』
振りかぶった三味線を肩に掛ける小平太は、にこりと笑みを浮かべる。
これは流石に不味いと釣られて笑った亮in小平太は振り返っては、一気に走り出した。
『痛いのはごめんだぞ!亮!』
「あ!待ちなさい!七松先輩!」
そんな遠慮なさらずに
了
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