一周年企画小説 | ナノ





  


亮もこんな風な仕草すればいいのにと考える輩約一名を除き、その部屋に集まった彼らは頭を抱えた。

朝起きたら亮と小平太の中身が入れ替わっていた。
2人が一緒に何か特別な事をしていた訳でも無ければ、互いに頭をぶつけた訳でも無い。
強いて言うならば、自身に一蹴りして欲しいと小平太が亮の後を追いかけ回している事位だろう。それもそれで問題ありなのだが、もしそれが原因だとしても入れ替わるではなく、片方が記憶が飛ぶ叉は変貌する。が適切だろう。因みに性格的面でだが。


「伊作、どう思う」

「うーん、流石に入れ替わったとなるとな……」

事例なんてものは無い。
直す方法なんて検討がつかない。ぶつかって入れ替わったのならば、同じ状況同じ環境を作り上げればいい。だが、何もしていないとなると………

頭を抱えるしかない。

2人が共通して何かをしたと言う事だろうか?もしそうなれば、此処は当事者である2人が何かをしたと思われる。

「心当たりは有るか?」


そう訪ねても亮と小平太は首を横に振る。
しかし、其処でふむ。と考え出した亮に部屋にいた皆の視線が集まった。


『もしかしたら、あれかもしれませんね』

「あれ?」

『僕、ちょっと行って来ますね』


小さく一礼した亮が小さく笑っては、皆が居る部屋から出て行った。
音を立てる事無く廊下へと出て行く姿は、相変わらずだと皆思った。

「こんな事態だと言うのに、冷静だね亮」

「ああ」


慌てる事無く静かに物事を見て、冷静に判断する。
うんうんと感心する一同だが、何かが可笑しいとふと気付いた。
あれ?今部屋から出て行った亮は普段通りの口調だった。廊下も相変わらず音をたてずに出て行った。しかし、今の状況はと思い出す。
其処で、部屋の中で正座をしていた小平太の姿を捉える。
同時に弾ける様に部屋を飛び出た。そして、「七松先輩ぃ!」と自身の名を呼ぶ七松小平太の姿を目で追った。




「…………」

「…忘れていたな」





* * *


ふわふわと軽やかな足取りで廊下を歩くのは亮。
揺らめく桜色を靡かせながら鼻歌混じりで普段よりも一層笑みの深い口元に、良いことでもあったの?と聞きたくなる程明るいものである。

勿論見た目は亮であるものの、中身は七松小平太で有ることには変わりは無い。
そんな事を知っているのは一部の人間だけであり、知らない第三者からすれば分からないまま。
それは反対側からやってきた生徒も同様。
機嫌が良いのか僅かに聞こえる鼻歌は軽やかで、野生的と言ってもおかしくない七松の耳にはしっかりと届いていた。
自身の可愛がる後輩の一人だと理解すると、今日の委員会の連絡をしなければならなかったと思い出す。
昨日は裏々々山まで塹壕を掘りに進んだから、今日は張り切って海までマラソンしよう。日差しも丁度よく、きっと気持ちがよい筈だ。


「おーい!滝夜叉丸!」


アイドル学年と呼ばれる四年生の一人。男にしては整った顔付きで、流れる髪の毛は誰もの目を引き寄せる。性格に問題のある生徒だが、意外と面倒見のよい生徒だと七松は理解している。
上下関係もしっかり持つ人物で責任感も強い。体育委員会メンバーに今日は校庭に集合するように伝えて……


「は…?亮、今なんて?」


めったに見れない滝夜叉丸の間抜け面。プライドの高い彼は常に優雅に振る舞う仕草を取る。先輩にも後輩にも隙を見せようとしない彼なのに、何だこの抜けた顔付きは。
小平太は彼の滅多に見れない表情に、腹を抱える。笑い声は必死に耐えながら………。

状況が一行に理解出来ない滝夜叉丸。
自身を呼んだのは誰でも無い目の前にいる亮なのだが、彼は自身をあの様に名前呼びをする人物だったか?
大人っぽく振る舞う素振りを見せるものの、どこか抜けていて一部常識を知らない彼は子供そのものにも見える。
そんな亮がタメとは言えあんな風には呼ぶはずがない。

幻聴と言う単語が脳裏をよぎっていくのを

「滝夜叉丸聞いてるのか!」

幻聴じゃなかった。

確かに滝夜叉丸と言った。
目をこすりパチリとまばたきした先には薄桜色の髪を持つ亮しか居らず、第三者と言う存在は居ない。
まさか?本当に?


「………亮か?」

『当たり前だろ?』クルリと優雅に横に一回転。尻尾の様に後を追い弧を描く髪の毛は柔らかく、定位置に戻った瞬間にほくそ笑む姿はどこからどう見ても亮である。普段離さず身につける三味線の姿は無いが、やはりどこからどう見ても五年は組の亮そのもの。
一体なにがあったのだろうか?
あの亮がまるで別人だ。まさか頭を打って……


『丁度いい所に居た!実はな今日の体育委員会の活動が「休みになったんですよ!」もがふ!』

「は?」


いつもより明るい口調の亮の口が塞がれる。
次に現れたのは七松小平太。別名破壊者叉は暴君と呼ばれる彼は亮の口を強引に塞ぎ、ぜいぜいと荒い息を吐く。
体力の底がない事で有名な七松小平太が珍しい。
口を塞がれた亮は未だにもがもがと慌てるも、無視する小平太はいきなり滝夜叉丸の肩を掴む。

「ぎょう…ゲッホ。今日は日頃疲れている皆様の…んん!みんなの為に委員会は休みだ!」

「ええ?!」


そう言う事だ!
他のメンバーにもよろしく伝えておいてくれ!

どこか挙動不審の七松小平太は、其処にいた亮を抱えるや否やよろしくなー!と反対側へとはしりだした。
ああ!こら!お前なに勝手にーー!と亮の断末魔が響き渡る。
突如として現れた不自然な風は、暴君と言う嵐によりさらわれた。

残された滝夜叉丸はどうしてよいのか分からないが、七松が言い残した言葉が脳内を一周した所で理解。

あの地獄の様な委員会が休み。
急いで後輩達に知らせねば!
ウキウキした足取りで彼はその場から立ち去った。





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