謳えない鹿2 | ナノ



 

「何を企んでる?」


そんな事を言われたのは今から数刻前の事。詳しく言えば亮が一人で慌てて食堂から姿を消し、一人落ち込む三年生を慰める友人達のすぐ隣からだった。
私は何が?と友人達に聞こえない様に返してやれば、「白をきるつもりか?」なんて言われてしまっては後が引きづらくなる。そこで、企んでは居ないさ。と笑ってみせれば、どうだか。と、今度は矢羽根で言葉を飛ばしてきたのだった。

別に、ただ単には組の奴に相談されて、私がそれを解決させようとしているだけだ。

そう言うものの、白い肌には映える真逆な黒い瞳に籠もる感情に、私はやれやれと肩を竦めて見せる。

隣では相変わらず、落ち込む後輩に元気出せよ!きっと彼にも事情が有るんだよ!と懸命に励ます様子からして、どうやら私達の会話に聞き耳を立てては居ないのだと分かる。

心配するな。私とてアイツ等の落ち込んだ空気をいつまでも吸っては居たくないだけだ。
別に疚しい事なんて一つもない。


だから、そう睨むなよ、兵助?


チラリと言葉を投げてきた兵助を視界に捉えれば、相変わらずの無表情で箸をかじり私からその視線を外しはしなかった。

だが、その後からの彼、兵助からの言葉は返っては来なかった。


そんな事があったのを知らないだろう目の前に存在する背中へと声をかけてやれば、ピタリと見事に体は止まり綺麗な動作で振り返った亮が私の瞳に映り込んだ。


「今から何処行くんだ?」


私へと振り向いた存在は相変わらず背が高く、これでまだ一つ二つの年下なのだと思えば意味無く腹が立ってくる。
その身長を私に分けろ。と出そうになる言葉をかみ殺し、ぽかんと僅かに唇を開けるが直ぐにいつもの笑みを浮かべ『先生にプリントを提出に』と変わらない口調に口元が無意識に緩んだ。

朝食の失踪から間を開いた今、亮の様子はやはり変わらないものだった。もしかしたら、私達に会い辛いかと思っていたがどうやらそうでもないみたいだ。
今は授業を終えた小さな休憩時間であり、野外授業が有るクラスはこの時間以内に指定の場所へと向かっている最中だろう。

本来ならば貴重な休み時間を教室で過ごし、八をイジりながら待機しているのだが亮の異変を探る事を第一に考えた私は、今こうやって亮の目の前へと遣ってきていた。

少しでも亮がは組に対する異変の理由を探るべく、わざわざこうやって声を掛け一緒に行動してみる事にする。
教室から出る間際に「余計な事しちゃ駄目だからね?三郎」と雷蔵に釘を刺されたが、まぁ、こればかりはその時の内容による。

鉢屋さんはどうしてここに?とプリントを抱え僅かに首を傾げる動作を細かく観察しつつ、私もこっちに用があってな。だったら途中迄一緒に行こうと思ってな。構わないだろ?と言えば亮は、はい。とまた笑みを浮かべる。

止まっていた亮だったが私が先に動くことにより、あとを追うように隣でゆっくりと歩き出す。
隣を歩く存在の影が僅かに私へと差し、其処で改めて亮の背丈の高さを知る。同時に隅から隅まで亮を観察して見た。

八より少しだけ低い背丈の私から見る亮の存在が大きいものの、どこか線を感じさせる細さが見え隠れする理由はきっと亮の体付きが未だに未熟だからなのだと思えた。
五年生と成ればいくつもの実習、実践を繰り返し重ねて行く回数が増え同時に傷を追う回数やそれに伴い回避能力をつける為に体には筋肉が増えて行く。そしてこの年齢になれば体つきが良くなる。それは明らかに男女の差を見せ付ける時期でもあった。

勿論、それは私や細く見えがちな兵助に雷蔵だってそうだ。
うん、脱いだら凄いんだぞ?本当は。

でも、隣を歩く亮は私達と異なり、細く見えてしまう。
一瞬だけ、そう。こうやって観察する最中に亮が女に見えてしまったが、それは無いだろう。と自身で修正した。

線が細く見えてしまうのは亮の体つきがまだ、三、四年生辺りの年齢でありいくら筋肉を早い段階で筋肉をつける為に肉ばかり食べていたらしいが、体がそれに付いていけなかったのか未だに亮は細いままなのだからだろう。

それを余計に感じさせるのが、年齢には割り合わない長身。

さらに線を醸し出す。



「(何を馬鹿な事を……)」


頭を振りくだらない思考を払い退ければ、自身に差す影が揺らいだ。
視線を僅かに見上げれば、此方を覗き込む亮の姿があった。

私は何でもない。と、笑ってみせれば、とりあえず安心したのか亮は笑った。



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現59-総86

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